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 1987年、アメリカ、シカゴで同じ日に、2つのテレビ局が次々と電波ジャックされた。放送中だった番組が突如中断し、マスクをかぶった不気味な男に乗っ取られたのだ。

 「マックス・ヘッドルーム事件」と呼ばれるこの事件の犯人は、34年たった今日に至るまでわかっていない。

【画像】 1度目の電波ジャック:WGN(チャンネル9)

 マックス・ヘッドルームは、ある日突然現れた。

 1987年11月22日シカゴのスポーツキャスター、ダン・ローンは、シカゴ・ベアーズがデトロイトライオンズに勝利した試合のハイライトを伝えていた。

 これは、WGN(チャンネル9)のニュース番組Nine O’Clock Newsの中で何年も続いているレギュラーコーナーで、すべていつもの通りに進んでいた。

 ところが...21時14分、突然、ダン・ローンの姿が画面から消えた。彼だけでなく、試合の模様もすべてが消えてしまい、真っ暗になった。15秒後、まったく関係のない新たな人物が現れた。

 それは、イギリスの音楽番組に登場するCGキャラクター「マックス・ヘッドルーム」を模したもので、人物の後ろのグレイの背景も、その番組で使われていたものとよく似ていた。

 以下がその映像である。

・合わせて読みたい→ワイオミング、テレビ放送の電波ジャック映像

WGN Channel 9 - The Nine O'Clock News - "The 1st 'Max Headroom' Incident" (1987)

 音声はほとんどなかったが、映像はどこか不気味だった。ぐるぐると回転する背景の前で、この人物がリズムをとるように頭を振り、ブンブンというノイズが聞こえた。

 30秒後、WGNの技術者が周波数を別の送信機に切り替えたことで、映像はもとの番組に戻った。

 ダン・ローンは困惑しきって言った。「視聴者の皆さんは、なにが起こったのかと思ったことでしょう。私もそうですから」その後は、いつものように彼は放送を続けた。

 スタジオの技術者たちは、このジャックは局の内部から仕掛けられたものと考え、すぐに建物内を捜索して犯人を捕まえようとしたが、うまくいかなかった。

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 この不気味な映像は、第三者によってべつの場所であらかじめ撮影されたものであることがわかったが、すぐにまた新たな電波ジャックが発生した。

2度目の電波ジャック:WTTW (チャンネル11)

 この事件から約2時間後、今度はシカゴのチャンネル11の番組に、マックス・ヘッドルームが現れたのだ。

 23時15分、PBS (公共放送サービス) 放送局のWTTW (チャンネル11)は『ドクター・フー』のエピソード「The Horror of Fang Rock」を放映していた。すると、前とケースと同じように、突然、映像が途切れた。

 VHS録画の始めのような走査線が画面に現われ、マスク姿のあの人物が映った。前と同じように揺れ動く背景の前で頭を振り、今度はセリフが入っていた。

 耳障りな声で「もうたくさんだ!(That does it)」、「奴はとんでもなくダサい」などと叫び、にたりと笑ったかと思うと、WGNの評論家チャック・スワーキーについてふれ、自分のほうが優秀だと言い放った。

 それから、ペプシの缶を掲げながら、コカコーラキャッチフレーズ"波をとらえろ"を繰り返した。本物のマックス・ヘッドルームは、当時、コークの広報を担当していた。その後は、なんとも不可解な光景が続く。

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 マックス・ヘッドルームもどきは、性具のようなゴムをはめた中指でカメラをはじくと、テンプテーションズの"I'm Losing You"の歌詞を口ずさみ、ハミングした。そして、テレビ番組のフレーズをつぶやくと、無意味なことを叫び、うめき始めた。

 それから、WGNの頭文字と親会社のシカゴ・トリビューンを引き合いに出して、"世界のあらゆる偉大な新聞オタクたちのために、どでかい傑作を作ってやった"と言った。

 マイケル・ジャクソンが流行らせたような手袋を掲げ、"俺のきょうだいがもう片方をつけている"と叫び、それを手にはめた。"でも、これは汚い! まるで血のしみがついてるみたいだ!"

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 次に画面が突然切り替わり、この人物を上半身が映ったかと思うと、むき出しの尻がさらされた。この人物はマスクをとってカメラの前を覆い、その口に中指にはめていたゴムを突っ込んだ。

「奴らが俺を捕まえにやってくる」といきなり叫んだ。

「尻をこっちに向けな、クソ野郎」突然、女性の声が入る。そして、男の裸の尻をはえたたきで繰り返しひっぱたき始める。そのたびに男が叫び声をあげる。

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 この電波ジャックは1分22秒間続き、再び画面が真っ暗になった。WTTWの送信タワーにはそのとき、技術者がいなかったので、このナンセンスな映像を止めることができなかった。

 この電波ジャックの映像は、『ドクター・フー』のファンがたまたま録画していたものだ。

Max Headroom 1987 Broadcast Signal Intrusion Incident

マックス・ヘッドルームはどのように電波ジャックを行ったのか?

 WGNとWTTWはこの事件を何度も取り上げた。おもしろがる市民も多かったが、テレビ番組が突然中断されたことに困惑し、怒る人もいた。

 その一方、政府は事態を深刻にとらえていた。

 政府の独立機関で、放送電波を監視する連邦通信委員会(FCC)は、この謎めいたマスクの人物の捜索に全力を注ぎ、懸賞金つきで情報を募った。

「こうした犯罪の犯人には、懲役1年か最高10万ドルの罰金、またはその両方が科される」FCCの広報、フィルブラッドフォードは宣言した。

「これを滑稽な出来事だと思うかもしれませんが、放送信号の不法な妨害は連邦法に違反しているため、大変深刻な問題です」WTTW社は言う。

 そしてついに、FCCはどのように電波ジャックを行ったのかを突き止めた。

 犯人は、送信タワーの間に自分の衛星アンテナを設置し、オリジナルの信号をまんまと妨害したのだ。高価な機器など使う必要もなく、タイミングと適切な位置さえ決めれば、誰でもできることだという。

 また、映像が撮影されたと思われる場所も特定できた。動画の背景から、倉庫のロールダウン式のシャッターである可能性が高いと判断。そのようなシャッターのある倉庫が存在する地域を追跡した。

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手法、場所は特定できても犯人は見つからず

 さまざまなパズルのピースが見つかったにもかかわらず、マックス・ヘッドルームは誰かと言う最大の問題は、結局わからないままだ。

 犯人の身元についての憶測や噂ばかりが出回ったが、ほとんどはろくな調査もされずにすぐに却下された。

 犯人は自分の仕事に十分満足したのか、注目されないよう、忘却の彼方に消えていったようだ。

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本家本物、イギリスの音楽番組のマックス・ヘッドルーム

容疑者として浮上した人物

 しかし、事件から何年たっても、犯人ではないかとしていくつもの名前が浮上している。

 中でも有力なひとりは、アメリカ人映像制作者のエリック・フルニエ。交通事故で体の一部を失い、マネキンのパーツを使って体を再現したという架空のモデル、シャイア・セイント・ジョン(Shaye SaintJohn)の生みの親だ。

 シャイア・セイント・ジョンのファンは、フルニエの不気味でナンセンスな動画と、このたびのハッカーシュールで不穏な映像には、芸術的な共通点があり、マスクや嘘っぽい補綴物を使用しているところも似ていると指摘する。

Shaye Saint John is Dead (Eric Fournier- D.O.D.-Feb. 25th, 2010)-Volume One Productions

 しかし、フルニエをよく知る人たちは、そうした関連性は希薄だと言う。

 フルニエに放送通信の知識はほとんどなく、ハッキングがあった当時、シカゴにいたとは思えないというのだ。しかし、本人は犯人だと噂されていることをおもしろがるだろうという。

 残念ながら、フルニエ自身は長期にわたるアルコール依存症のせいで、2010年に内出血のため亡くなった。犯人だったのか、そうでなかったのかは、永遠にわからなくなった。

マックス・ヘッドルーム事件が残したもの

 マックス・ヘッドルーム事件は、これが最初でも最後でもなかった。

 この事件の1年前、史上初めて放送電波がジャックされた、キャプテン・ミッドナイト事件が起きている。

 犯人は、HBOが料金を値上げしたことに怒り、1986年4月27日ハッキングして番組を強制的に中断させ、自分のメッセージを主張した。このハッキングは、復旧するまで5分近く続いた。

Captain Midnight, HBO, 1986

 視聴者にとってはたいしたことではなかったが、軍事的な影響を警戒していたアメリカ政府にとっては、素人が衛星をハッキングしたことは、重大な問題だった。

 海軍や、ソ連の動きを監視するスパイ衛星がハッキングされれば、重大な情報の伝達が妨害され、国家機密が危うくなる恐れがあった。

 まだハッキングは比較的新しい犯罪だったので、刑は軽く、5000ドルの罰金、執行猶予、1年間のアマチュア無線ライセンスの停止という程度だったが、少なからぬ人々の不安を煽ったことは確かだった。

 2年もたたないうちに続いて起こったマックス・ヘッドルーム事件のころには、衛星のハイジャックは重罪で、罰金も一気に高くなった。

 今日、電波妨害をうまいことやってのけるのはかなり難しい状況だが、たまに成功することがある。

 2007年、ディズニーのアニメ「Handy Manny」を見ていたニュージャージー市民は、突然大人向け映像を見させられるはめになった。

 2009年には、仕事に不満をもったコムキャスト社員がスーパーボウルを中断させ、トゥーソン市民に37秒間、大人の映像を流すのに成功した。

 昨今、取り締まりは相当厳しくなり、このような電波ハッカーはだいたいは逮捕されている。

 マックス・ヘッドルームハッキングは、その内容が奇抜で、動機も謎に包まれているうえに、犯人もいまだ捕まっていないことから、電波ジャックの金字塔的な事件とされている。

References:The Creepy And Still Unsolved Story Of The Max Headroom Incident / written by hiroching / edited by parumo

 
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世にも奇妙な未解決事件。マスクをかぶった男がテレビ放送を電波ジャックした「マックス・ヘッドルーム事件」