米連邦通信委員会(FCC)の委員が中国発の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」をスマートフォンのアプリストアから削除するよう米グーグルと米アップルに要求した。米ウォール・ストリート・ジャーナル米CNBC6月29日に報じた。

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カー委員「TikTokは安全保障上の脅威」

 FCCのブレンダン・カー委員が2022年6月24日グーグルのスンダー・ピチャイCEO(最高経営責任者)とアップルのティム・クックCEOに書簡を送った。同氏はツイッター上で書簡を公開しており、この中で安全保障上のリスクを理由に両社のアプリストアでTikTokの配信をやめるよう求めた。

 「TikTokはその見かけとは大きく異なり、羊の皮をかぶったアプリだ。面白い動画やミームを共有するためのものではなく、実態は大量の個人データや機密データを収集する高度な監視ツールだ」(カー委員)と批判している。

 これに先立つ22年6月17日、米ネットメディアのバズフィードが、TikTok社内会議の録音データを基に、親会社の中国・北京字節跳動科技(バイトダンス)の従業員が中国から繰り返し、米国人利用者のデータにアクセスしていると報じていた。カー委員の書簡は、この報道についても触れている。

TikTok「暗号化や監視で利用者データを保護」

 ウォール・ストリート・ジャーナルによると、TikTok側は「中国など米国以外の地域にいる技術者は厳格な管理の下、必要に応じて米国利用者のデータにアクセスすることを許可されている」とし、中国からアクセスしている事実を認めた。

 その一方で、「暗号化やセキュリティ監視の仕組みを導入して利用者データを保護している」とも説明。「アクセス承認手続きは米国を拠点とするセキュリティチームが監督している」とも述べ、安全性を強調した。

 同社は22年6月17日、米国の利用者データを米IT(情報技術)大手オラクルサーバーに移管する作業を完了したと明らかにしていた。今回の声明でもこの対策に触れ、「コミュニティの安心を向上させるために、米国のデータに対する追加の保護対策に取り組んでいる」と述べた。

 ウォール・ストリート・ジャーナルなどによると、FCCのカー委員はグーグルとアップルの行動を強制する権限を持っていない。FCCは米国の通信政策を担い、幅広い管轄権を持つものの、概してアプリ規制には関与しないという。

 それでも今回の書簡はTikTokに対する政治的圧力を高めたとウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。また、多くの共和党議員が同じ週にTikTokに書簡を送り、バズフィードの報道について懸念を表明したという。

トランプ氏の大統領令、バイデン大統領が撤回

 TikTokを巡ってはトランプ前米大統領が20年8月、「米国人利用者の個人情報が中国政府に渡っており、国家安全保障上の懸念がある」とし、米事業をバイトダンスから切り離し、米企業に売却するよう命じた。トランプ氏はアプリの配信禁止も命じたが、首都ワシントンの連邦地裁は配信禁止措置は「行き過ぎの可能性がある」として一時差し止め命令を下した経緯がある。

 バイデン大統領は21年6月、TikTokや対話アプリ「微信(ウィーチャット)」などとの取引や、米国内での使用を禁じたトランプ前大統領大統領令を撤回した。この時、新たに大統領令を出し、敵対国が関与するアプリが米国の安全保障に脅威をもたらしているかどうかを判断するため、広範な調査を実施するよう政府機関に指示した。

 だがウォール・ストリート・ジャーナルによると、バイデン政権がその後、この取り組みに慎重な姿勢を示したため、政権が問題を真剣に受け止めていないとして批判の声が上がっていた。

TikTokの利用者、世界に10億人以上

 バイトダンスは12年に創業し、16年にTikTokの前身となったアプリ「抖音(Douyin)」を立ち上げた。同社は17年9月に抖音の国際版であるTikTokを立ち上げ、同11月に当時米国でも多くの利用者を抱えていた中国の動画投稿アプリ「Musical.ly(ミューカリー)」を買収。18年8月にTikTokとMusical.lyを統合し米国利用者数を一気に増やした。

 TikTokは現在、世界に10億人以上の利用者を抱え、米国の月間利用者数は1億人超に上るとみられている。

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TikTok ロゴ(写真:AP/アフロ)