天保13(1842)年、現在の浅草寺北側に江戸三座が集められ、その地は、猿若町と名付けられた。江戸歌舞伎の創成期の俳優で、猿若座(中村座)の創始者、猿若勘三郎にちなんだ名前だ。それから180年。同じく浅草の地に、2022年10月5日(水)、仮設劇場の平成中村座が建てられ、二ヶ月連続公演が初日を迎えた。開幕に先駆け、平成中村座の櫓の下で、中村勘九郎田中傳左衛門が「一番太鼓」を行った。

「一番太鼓」は、1624(寛永元)年、初世田中傳左衛門が、開場を知らせる太鼓を打ったのがはじまりとされている。平成中村座では、2000年のはじめての公演において、十八世勘三郎と当代の田中傳左衛門が「一番太鼓」を復活させ、以来、恒例の儀式となっている。

勘九郎より傳左衛門へ、厳かに長バチが渡される(「ばち渡しの儀」)。傳左衛門はそれを宙でふり、はじめに大きな太鼓のフチを軽く、その後軽快に、スピードを上げ、さらにゆったりと、調子を変えて音を響かせた。最後に2回強く打ち上げられると、背筋が伸びるような心持に。清々しさと高揚感に包まれ、一同から自然と拍手が起きた。神妙な面持ちだった勘九郎も、ぱっと明るい表情になった。傳左衛門に声をかけ、報道陣に2人で笑顔を見せた。

勘九郎は、開幕に向けたコメントをよせた。

「四年ぶりに浅草に帰ってきました。今から180年前、天保十三年十月五日に中村座がここ浅草の地で開幕しました。同じ十月五日に初日を迎えられるという、奇跡的なご縁を感じます。宮藤官九郎さんに描いていただいた新作『唐茄子屋』ももちろんですが、古典の持つ魅力も合わせて、平成中村座でご堪能いただきたいと思います。今日から二ヶ月、皆様のご来場をお待ちしております」

10月公演の第一部は、『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)角力場』『極付幡随長兵衛(きわめつきばんずいちょうべえ)と古典の名作が並ぶ。第二部は、『綾の鼓(あやのつづみ)』『唐茄子屋(とうなすや)不思議国之若旦那』。『唐茄子屋』は宮藤官九郎が書き下ろす新作だ。出演は、勘九郎の他、中村獅童、中村七之助、片岡亀蔵、坂東彌十郎、そして中村扇雀。第一部には獅童の長男・小川陽喜、第二部には勘九郎の長男の中村勘太郎と次男の中村長三郎、さらに大人計画より荒川良々も出演する。『平成中村座十月大歌舞伎』は10月5日(水)より10月27日(木)まで。その後は、11月3日(木・祝)から11月27日(日)まで『平成中村座十一月歌舞伎』も上演される。

取材・文・撮影=塚田史香

一番太鼓を終えた、田中傳左衛門と中村勘九郎(左から)