米アップルにとって短期的な問題は、新製品「iPhone 14」シリーズ上位モデルの供給不足だ。一方で、同社にとって長期的な問題は、より幅広い顧客層に向けたアップル全製品の供給不足リスクだと、米ウォール・ストリート・ジャーナルが報じている

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鄭州工場の抗議行動、いまや複数都市で

 アップルは2022年11月6日、中国鄭州市のiPhone工場で起きた従業員の集団脱出騒動を受け、「中国政府の厳格なゼロコロナ政策により組立工場で一時的に影響があった」とし、上位モデルの「14 Pro」と「14 Pro Max」の出荷が遅れると明らかにした。その後の22年11月22~23日には、新たに雇った新人工員の不満が噴出し、大規模な抗議活動が起きた。これにより同工場では2万人以上の従業員が離職したと伝えられている。

 実際にアップルのオンラインストアをのぞいてみると、普及モデルの「iPhone 14」と「14 Plus」は「在庫あり」と表示されるのに対し、14 Proと14 Pro Maxの出荷日は「5~6週間」となっている。

 だが、抗議活動は今や鄭州のiPhone工場にとどまらず、上海や北京など中国のあちこちに広がっており、状況は悪化の一途をたどっている。デモ参加者は「白紙」を掲げて政府への反意を表明。習近平(シー・ジンピン)国家主席体制に対する批判スローガンも公然と叫ばれている。当局がデモの阻止に向けた対策を本格化したとも報じられているが、いまだ着地点は見えず影響は同国で事業展開する外国企業にも広がっている。

アップルの長期的な方向性に疑問

 ウォール・ストリート・ジャーナルは、「アップルは単なる外国企業ではない」と報じている。時価総額世界トップの企業であり、iPhoneを製造するためだけに同社専用の「都市」を必要とするほど巨大。現在その出荷台数は毎年2億3000万台を超えている。

 同社製品のほぼすべてが中国で生産されているという状況の中、中国での不安の高まりは、iPhoneの短期的な販売だけでなく、アップルの長期的な方向性に対する疑問を増幅させているという。 米バンク・オブ・アメリカのアナリストであるワムシ・モーハン氏は22年11月初めに公表したリポートで、「アップルにとって、中国を拠点とする生産体制からの有意義な分散化は何年も先になるだろう」と指摘した。

上位モデルの需要消滅か

 ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アナリストらはおおむね、14 Proの購入を検討しているほとんどの人が納期が遅れても待つだろうと予想している。その場合はiPhoneの収益の一部が23年1~3月期にずれ込むことになる。その一方で、欧州金融大手クレディスイスのアナリストであるシャノン・クロス氏は22年11月23日に公表したリポートで、「新しい携帯電話を必要としている人やクリスマスプレゼントにiPhoneを贈ろうと思っている人によって、需要がより安価なiPhone 14と14 Plusに移行するリスクがある」と指摘する。

 ロイター通信によれば、アップル製品の市場動向やサプライチェーン情報に詳しい中国TFインターナショナル証券のミンチー・クオ氏は、22年10~12月期における14 Proと14 Pro Maxの出荷台数が市場予想を最大2000万台下回ると指摘している。これにより同四半期のiPhone全機種の出荷台数は市場コンセンサスの8000万~8500万台に対し、2割少ない7000万~7500万台になると同氏はみている。

 同氏はブログへの投稿記事で、「消費者も景気の減速の影響を受けている。14 Proと14 Pro Maxの供給不足は販売時期の先延ばしにつながるのではなく、これら上位モデルに対する需要のほとんどを消滅させる可能性がある」とも指摘している。

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iPhone 14 Pro Max(写真:UPI/アフロ)