誹謗中傷の被害に遭ったら、まずどこへ通報や相談をすればよいのでしょうか? 誹謗中傷の通報・相談先は、求める結果によって異なるため、適切な先に連絡をとることが必要です。本記事では、誹謗中傷の被害に遭った場合の相談先や通報先などについて、弁護士がくわしく解説します。

「誹謗中傷」とは?

一般的に、誹謗中傷とは根拠のない悪口を言うなどして相手を傷つけることを指します。インターネットの普及により、一般個人が簡単に情報を発信できるようになりました。これは非常に便利である一方で、他者を誹謗中傷する投稿の増加が社会問題となっています。

PCやスマートフォンに向かって書き込みをしていると、自分の日記などに書いているような感覚になるかもしれません。しかし、インターネットの向こうには生身の人がいることを、常に意識しておく必要があるでしょう。

なお、「誹謗中傷罪」という罪はありません。しかし、誹謗中傷は、刑法上の「侮辱罪」や「名誉毀損罪」などの罪にあたる可能性があるほか、損害賠償請求の対象となる可能性もあります。

誹謗中傷の被害に遭った場合の通報・相談先

もしインターネット上で誹謗中傷の被害に遭ってしまったら、どこに通報や相談をすればよいのでしょうか? どこに通報や相談をするべきであるのかは、求める効果によって異なっており、それぞれ次のとおりです。

書き込みを削除させたい場合

誹謗中傷をする内容の書き込みを削除させたい場合には、誹謗中傷の投稿されたSNSや掲示板などの管理者へ通報します。多くのSNSや掲示板で削除依頼の方法や削除依頼フォームが定められているため、ここから削除依頼を出しましょう。

ただし、書き込みの削除依頼には、注意点があります。注意点は後ほど解説するので、削除依頼の前に確認することをおすすめします。

誹謗中傷した相手を特定したい場合

インターネット上での誹謗中傷は、相手が誰なのかわからないことが少なくありません。書き込みをした人がわからなければ周囲の人に疑心暗鬼となってしまい、不安が募ってしまうこともあるでしょう。しかし、誹謗中傷をした相手の特定には裁判手続きが必要なことが多く、自分で行うことは容易ではありません。

そのような場合の相談先は弁護士です。早期に弁護士へ依頼をして適切に手続きを進めれば、相手が特定できる可能性は高まるでしょう。なお、相手が特定できるかどうかは、時間との勝負です。時間の経過とともにログが消えてしまい、プロバイダから情報の開示を受けられない可能性が高くなるためです。そのため、誹謗中傷をした相手を知りたい場合には、一刻も早く弁護士へご相談ください。

誹謗中傷した相手を訴えたい場合

誹謗中傷をした相手を訴えたい場合の相談先は弁護士です。相手を訴える場合には、先に相手を特定する必要があるため、早期に弁護士へご相談ください。

なお、誹謗中傷で相手を「訴える」には、次の2つのパターンが存在します。これらのいずれか一方のみを選択することも、両方を行うことも可能です。

1.民事で「訴える」

誹謗中傷で「訴える」の1つ目は、民事での請求です。

こちらは、相手に対して損害賠償請求をすることを指します。損害賠償請求とは、相手の誹謗中傷によって被った損害を、金銭で支払ってもらう請求です。弁護士から相手に直接請求しても支払わない場合には、裁判に舞台を移して請求をすることとなります。

2.刑事で「訴える」

誹謗中傷で「訴える」の2つ目は、相手を刑事告訴することです。

刑事告訴とは、警察や検察に犯罪行為のあった事実を申告して、犯罪者の処罰を求める意思表示です。誹謗中傷は、刑法上の罪にあたることが少なくありません。

たとえば、「名誉毀損罪」や「侮辱罪」、「脅迫罪」などです。これらのうち、「名誉毀損罪」や「侮辱罪」は、被害者からの告訴がないと相手を処罰できない「親告罪」です。また、「脅迫罪」は親告罪ではないものの、よほど大々的に行われた危険性の高いものでない限り、警察や検察が独自に捜査するケースは少ないでしょう。そのため、誹謗中傷で相手を刑事上の罪に問いたい場合には、相手を刑事告訴することになります。

そのほかの通報先

誹謗中傷に関するそのほかの通報先としては、次のものが挙げられます。

■警察

誹謗中傷が刑法上の罪にあたる場合には、警察に直接相談や通報をすることも可能です。しかし、警察は必ずしもすぐに事件として捜査を開始してくれるわけではなく、事実や主張を整理したり、証拠の提供を求められることも多いです。

誹謗中傷で相手を刑事告訴したい場合には、いきなり警察に行くのではなく、まずは弁護士に相談したほうがよいでしょう。

■中傷ホットライン

誹謗中傷ホットラインとは、「一般社団法人セーファーインターネット協会」が運営する誹謗中傷の相談先です。

誹謗中傷ホットラインでは、誹謗中傷をする投稿削除のサポートなどを行っています。投稿の削除を求めたもののSNS運営企業などが削除に応じてくれない場合などには、こちらに相談をしてみてもよいでしょう。

書き込み削除依頼の通報をする際の注意点

書き込みの削除請求を求めてSNSや掲示板の管理者、誹謗中傷ホットラインへ通報する際の注意点は次のとおりです。

削除請求の前に証拠を残しておく

自分を誹謗中傷する投稿がインターネット上に存在するのは、気分のよいことではないでしょう。その情報を目にする人を減らすため、できるだけ早く消して欲しいと考えるかもしれません。

しかし、投稿が削除されるということは、誹謗中傷の証拠が消えてしまうということです。そして、証拠がなければ、誹謗中傷をした相手を特定する発信者情報開示請求などが困難となります。そのため、削除請求をする前にいったん立ち止まり、あらかじめ投稿の証拠を残しておきましょう。

証拠を残す方法とは、たとえば投稿のスクリーンショットを撮影することなどが挙げられます。スクリーンショットを撮影する際には、次の情報などが掲載されるよう、漏れなく撮影します。

・誹謗中傷する投稿の内容

・投稿のURL

・投稿の日時

・相手のアカウント名やユーザー名

ただし、できればスクリーンショットの撮影後、削除請求の前に弁護士へご相談ください。なぜなら、スクリーンショットには漏れや不備がある場合も多く、弁護士のアドバイスのもと追加で撮影すべきことも少なくない一方で、すでに削除がされていれば、それ以上撮影することができないためです。

相手に直接削除依頼をしない

自分を誹謗中傷する投稿をされれば、非常に腹立たしいことでしょう。また、根も葉もない悪口を投稿されてしまうと、相手に直接言い返したいこともあるかと思います。

しかし、誹謗中傷する投稿をした相手に直接言い返したり、削除するよう直談判をしたりすることはおすすめできません。なぜなら、火に油を注いでしまい、誹謗中傷がエスカレートする可能性があるためです。また、言い返した内容によっては、相手に法定措置をとる上で不利となるかもしれません。

誹謗中傷を弁護士に通報した場合の流れ

誹謗中傷について弁護士に相談(通報)をした場合には、どのような流れになるのでしょうか? 基本的な流れは次のとおりです。

証拠を保存する

自分を誹謗中傷する投稿を見つけたら、まずはスクリーンショットを撮影しましょう。相手が投稿を消したり、他者からの通報で投稿が消されてしまったりする前に証拠を残すことが重要です。

弁護士に初回相談をして依頼する

証拠を保全したら、すぐに弁護士に相談しましょう。弁護士への相談料金は事務所によって異なりますが、初回相談は安価や無料とされていることもあります。

誹謗中傷への法的措置は、時間との勝負です。そのため、できれば誹謗中傷の投稿を見つけたその日や翌日に、すぐにでも弁護士へ相談ができるとよいでしょう。相談後、具体的な法的措置へ移行する場合には、弁護士へ依頼して先に進みましょう。

なお、依頼した場合の料金は事務所や依頼する内容などによって異なるため、相談時に確認しておくことをおすすめします。

相手にとる法的措置を検討する

次に、相手にとる法定措置の内容を検討します。民事での損害賠償請求をするのか、刑事告訴をするのか、もしくは両方を行うのかということです。

なお、希望する方法を自由に選べるということではなく、誹謗中傷の内容や態様によっては、いずれかの方法しかとれない場合もあります。刑事と民事で法定措置が可能な場合が同一ではないためです。また、両方を行おうとすれば、そのぶん時間や費用を要する場合があります。

そのため、相手にとる法的措置は、弁護士とよく相談のうえ検討するとよいでしょう。

相手を特定する

相手が誰であるのかわからなければ、損害賠償請求をすることはできません。また、刑事告訴をする際にも、誹謗中傷トラブルの場合には、あらかじめ相手を特定してから告訴をすることが通例となっています。そのため、具体的な法的措置をとる前に、相手を特定するためのステップを踏むことが必要です。

これを、「発信者情報開示請求」といいます。この手続きは、次の二段階で行うことが多いでしょう。

1. コンテンツプロバイダ(X(旧Twitter)社など)から、IPアドレスとタイムスタンプを入手する

2. 1で得た情報をもとに、アクセスプロバイダKDDI社やNTT社など)から、契約者の住所氏名の情報を入手する

ただし、相手の情報を開示するようSNS運営企業などに直接発信者情報の開示を請求しても、任意に教えてくれることはほとんどありません。そこで、発信者情報を開示するよう、裁判所から命令を出してもらう手続きが必要となることが一般的です。

プロバイダ責任制限法の改正により「1」「2」を同時に行うことも可能となりましたが、コンテンツプロバイダによっては同時に行うことが難しいことがあるため、詳しくは弁護士にご相談ください。

(民事の場合)損害賠償請求をする

相手が誰であるのかがわかったら、相手に損害賠償請求を行います。損害賠償請求は、まず相手に弁護士から内容証明郵便を送るなどして、直接行うことが多いでしょう。ただし、相手が請求を無視するケースや、減額の請求をするケースも存在します。

このように、直接の請求で交渉がまとまらない場合には、裁判上で損害賠償を請求する必要があります。

(刑事の場合)刑事告訴をする

相手が誰であるのかがわかったら、告訴状を作成し刑事告訴を行います。告訴が受理されると、その後、警察で事件の捜査がなされます。相手が証拠隠滅を図る可能性がある場合などには、逮捕される場合もあるでしょう。その後、警察から検察に事件が送致され、検察でも捜査が行われます。

そして、検察が起訴か不起訴かを決め、起訴されると略式起訴を除き刑事裁判が開かれます。刑事裁判では有罪か無罪かなどが決定されます。また、有罪の場合には刑事罰の対象ともなりますが、執行猶予がつく可能性もあるでしょう。

まとめ

誹謗中傷の通報先や相談先は、求める効果によって異なります。なかでも、相手に対して法的措置をとりたい場合や相手を特定したい場合には、弁護士へご相談ください。

誹謗中傷への対応は、時間との勝負です。時間が経過すると投稿のログが消えてしまい、相手の特定が困難となるためです。そのため、スクリーンショットなどで証拠を残したら、すみやかに弁護士へご相談ください。

Authense 法律事務所

(※写真はイメージです/PIXTA)