累計発行部数が3200万部を突破したかわぐちかいじの同名コミックを、大沢たかお主演で実写映画化した『沈黙の艦隊』がついに公開を迎えた。「核抑止力をもって世界平和をいかに達成するか」という問題提起を軸に、大迫力の潜水艦による海中バトルアクションや重厚な政治サスペンスなど、全世界を巻き込む予測不能なストーリーが展開される。

【写真を見る】不動の意志を感じる仁王立ち…大沢たかお演じる海江田の思惑とは?

その壮大なスケールから、“実写化不可能”とされていた原作の映画化を実現したのは、「キングダム」シリーズなどを手掛ける制作会社クレデウスと東宝、そして日本の劇場用映画に初参加となったAmazonスタジオのタッグだ。『ハケンアニメ!』(22)で第46回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞した吉野耕平監督がメガホンを取り、まさに日本が世界に向けて大勝負に出るにふさわしい、圧倒的なエンタメ大作に仕上がっている。そこで本稿では、没入型の映画体験ができるIMAXで観てこそ真価を発揮する本作を、ストーリーやキャスト、映像、音響などあらゆる観点からIMAXで堪能すべきポイントを紹介していこう。

■“実写化不可能”な原作を、極上のエンタテインメントにアップデート!

日本近海で海上自衛隊潜水艦がアメリカの原子力潜水艦に衝突し沈没。艦長の海江田四郎(大沢)を含む乗員全76名の死亡が報じられる。だが実は乗員たちは皆生存しており、事故は日米の政府が極秘に建造した高性能な原子力潜水艦「シーバット」に彼らを乗務させるための偽装工作だった。ところが「シーバット」の艦長に任命された海江田は、「シーバット」に核ミサイルを搭載して乗員たちと共に反乱逃亡。自らを国家元首とした独立戦闘国家やまと」の建国を宣言するのであった。

1988年から1996年にかけて「モーニング」(講談社)で連載された原作は、“核の国際秩序”というタブーに斬り込んだテーマ性と、緻密で的確な軍事考証や物語のクオリティの高さで多くの読者を獲得にした。一方で、湾岸戦争や冷戦終結などといった連載当時の国際情勢も相まって、国会でも取り上げられる問題作としても注目を集め、実写化は不可能であると評されていた。そして折しも、ロシアによるウクライナへの侵攻など世界に新たな緊張が走るこのタイミングで実写化された本作は、時代設定を現代に置き換えることで物語に込められた平和を願うメッセージをより身近のものにしつつも、よりリアルかつ極上のエンタテインメント作品へとアップデートを遂げている。

■世界に警鐘を鳴らす“禁断のテーマ”に、実力派俳優たちが全身全霊で挑む

そしてこの“実写化不可能”を可能にした最大の立役者の一人は、海江田役を演じた大沢だ。原作の大ファンである大沢は自らプロデューサーも兼任し、原作者のかわぐちへの企画プレゼンから、防衛省海上自衛隊への協力依頼まで、本作の実現に向けて尽力している。もちろん座長としても現場を鼓舞し続け、撮影を見学に訪れたかわぐちが「大沢さんが白い軍服と白い軍帽で立っていらっしゃったのを見た時に“海江田がここにいた”と思いました」と太鼓判を押す存在感を発揮。「キングダム」シリーズの王騎役にも匹敵するカリスマ性と迫力と共に、大沢の作品にかける熱量がスクリーンを通して伝わってくるはずだ。

そんな海江田を追うのは、海上自衛隊ディーゼル潜水艦「たつなみ」。海江田と正反対とも言える性格の艦長、深町洋役を玉木宏が熱演している。また、深町の右腕で「たつなみ」の副長、速水貴子役には水川あさみ、ソナーマンの南波栄一役はユースケ・サンタマリアが演じている。彼ら“追う者”の視点から物語を見ることで、「海江田の真の目的とはなにか?」というサスペンス要素がより際立ってみえることだろう。また、「シーバット」の乗組員や対峙する米艦隊など、“海中”で交錯しあう登場人物たちの心理戦が、潜水艦内の閉鎖的な環境と相まって手に汗にぎる緊張感を生む。

さらに江口洋介演じる内閣官房長官の海原渉や、夏川結衣演じる防衛大臣の曽根崎仁美ら “地上”にいる者たちの思惑も混ざり合い、そこに上戸彩演じる報道キャスターの市谷裕美や、海江田や深町とかつて同じ潜水艦に乗務していた中村倫也演じる入江蒼士の存在が、物語にさらなる奥行きを与えていく。

この豪華俳優陣が全身全霊で挑んだ、迫真の演技の数々は、視界いっぱいに広がる巨大スクリーンを有するIMAXで観ることで、その微細な表情の変化や視線の動きひとつ逃すことなく確認することができるはず。そこから、表層にはあらわれていないドラマ性と、本作に込められた強烈なメッセージを受け取ることになるだろう。

■巨大なクレーンで吊るして撮影!“国家機密事項"を再現した潜水艦内部

沈黙の艦隊」の代名詞と言えば、なんといっても“潜水艦”。本作では、防衛省海上自衛隊の協力によって、日本映画として初めて実物の潜水艦を撮影に使用することが許可された。とはいえ潜水艦の内部は重要な国家機密事項。それでも潜水艦が潜るシーンで実際にカメラを潜水艦上部に搭載して撮影が行われるなど、随所にあふれる“本物志向”が潜水艦ファンの心をわしづかみにしていく。

緊張感あふれる潜水艦同士の攻防は、閉鎖感に包まれた艦内が主な舞台となる。撮影前に本物の潜水艦の取材をしたスタッフは、写真を撮ることが許されなかったため、その目で見た内部の様子を参考にしながらセットとしてデザイン。また、“動かない”海江田が指揮する「シーバット」は、最新鋭原潜という未知なる存在への想像力を膨らませながら生みだされたという。一方で、“動き回る”深町のディーゼル潜水艦「たつなみ」の窮屈さとの対比も見逃せないポイントで、両者の内部構造やディテールもIMAXの大スクリーンなら余すところなくチェックすることができる。

この潜水艦内部を再現したセットは、劇中で幾度も訪れる傾きや浮上感を表現するために、なんと巨大なクレーンで吊るされながら撮影が行われたという。そして内部の空間をよりハイスペックな映像体験として見せるために採用されたのは、新型カメラ「ALEXA35」。これによってフィルムのような諧調表現とリッチな色再現が可能になり、ハイライトと暗部の表現も最大限に発揮される。まさにハリウッド大作に引けを取らない撮影機材と創意工夫によって、力強い映像が生み出された。

■激しいバトルとの対比も必見!神秘的な海中を実現したCG表現

そしてメガホンをとった吉野監督と言えば、キャラクターを的確にとらえエモーショナルなドラマを作りだすなど、その演出力の高さに定評がある。キャリア初の超大作となった本作でも、海江田という人物に込められた二面性や、彼の行動をめぐる大勢の人々の心理を巧みに捌いていくと同時に、ビジュアル面でも吉野監督ならではの強みが活かされた。

というのも、吉野監督は社会現象を巻き起こした新海誠監督の『君の名は。』(16)にCGクリエイターとして参加した経歴の持ち主。本作では、光が入ってこない水中で凹凸の少ない潜水艦を見せるという、CGでは難易度の高い表現に対し、マリンスノー(浮遊物)を配置することで潜水艦の動きや重みを表現する方法を選択している。それによって海中の世界観がより神秘的に映り、激しいバトルシーンとの対比も生まれている。IMAXの巨大スクリーンで味わえば尚更に、一度観たら忘れられない美しさだ。

こうして実物とCGを融合したことで、迫力満点の潜水艦表現が実現。そこにIMAXのハイスペックな上映環境が加わることで、質感から内部の息苦しさまで臨場感たっぷりに擬似体験ができるはず!ウォルフガング・ペーターゼン監督の『Uボート』(82)をはじめ、これまで世界中で数々の傑作が生まれてきた“潜水艦映画”というジャンルに、胸を張って加わることができる日本映画がついに誕生したのだ。

■海中の静寂からど迫力の魚雷攻撃まで…こだわり抜かれた“音”の表現

そしてなんといっても、潜水艦を駆使した海中でのバトルシーンの数々は圧巻の一言に尽きる。視界いっぱいに広がる巨大スクリーンと高精細な音響を兼ね備えたIMAXの上映環境でそれを味わうことによって格別のものとなる。

冒頭のシーンから描かれる、潜水艦「やまなみ」とアメリカの原子力潜水艦の衝突シーンでは、ズシンとした衝撃が体いっぱいに響き渡る。さらに機械室が海水に侵されていく一連をはじめ、潜水艦の内部から味わう緊迫したバトルの連続。まるで「やまと」の一員になって海江田と共に乗り合わせているかのような、あるいは「たつなみ」のなかで深町と共に海江田を追っているような臨場感を全身で感じることができ、いつしか“映画を観ている”という感覚を忘れてしまうことだろう。

そんな臨場感をより一層高めているのは、こだわり抜かれた“音”の表現だ。無音の海中で味わえる静寂の“音”、潜水艦の狭い艦内で浴びる機械やかすかな波の“音”、そして攻撃によって潜水艦内部へと伝わってくる衝撃の“音”。どんな微細な“音”も逃さずにとらえるIMAXの音響環境の醍醐味を、これでもかと味わえる。物音を立てずに潜航する潜水艦をわずかな音だけでキャッチするソナーマンの気分を、映画館にいながらにして体験し、彼らが一斉にヘッドフォンを外すとあるシーンでは、一気に全身の力が入ること間違いなしだ。

また原作ファンが楽しみにしているであろう、海江田の趣味であるクラシック音楽と戦闘シーンの融合も存分に堪能することができる。モーツァルトの「交響曲第41番『ジュピター』」をはじめとした、オーケストラ収録による壮大なトラックが映画全編を彩り、それが海中の静けさの向こう側から聞こえてくる瞬間はまさに鳥肌もの。スクリーンでは激しいバトルが繰り広げられ、目からも耳からも『沈黙の艦隊』の世界を浴びることができる。

作り手たちの原作に対する熱量と愛情によって、誰もが楽しめるエンタテインメント大作に仕上がった本作は、IMAXで観てこそ真価を発揮するだろう。ド迫力の潜水艦アクションや緊迫の心理戦、そして全世界を巻き込む壮大な世界観を存分に体感してほしい。

文/久保田 和馬

『沈黙の艦隊』IMAXでの見どころをチェック!/[c]かわぐちかいじ/講談社 [c]2023 Amazon Content Services LLC OR ITS AFFILIATES. All Rights Reserved.