古くは江戸時代から人形浄瑠璃歌舞伎、その後も映画にドラマに…と、ジャンルを問わず日本人にとっての“鉄板コンテンツ”であり続ける「忠臣蔵」。そんな「忠臣蔵」のうち、1910年製作の“現存する最古の映画”を含む5作品がCS放送「衛星劇場」で12月に放送される。100年以上も前の映画製作者のロマンがつまった映像に、現代の演奏・弁士による語りを合わせた“新作”だ。本記事では、時代を超えジャンルを超えて、日本人に愛され続ける「忠臣蔵」の魅力に迫る。

【写真】「元禄忠臣蔵 大石最後の一日」より 琴の爪

■もとになった“赤穂事件”とは

忠臣蔵」は、江戸時代に実際に起こったセンセーショナルな事件をもとにして作られた創作作品だ。元禄15(1702)年12月14日、赤穂藩主・浅野内匠頭長矩(あさのたくみのかみながのり)の家臣47人が、切腹処分を受けた主君の仇(かたき)をとるべく吉良上野介義央(きらこうずけのすけよしひさ)の屋敷に討ち入りし、吉良を討ち取った“赤穂事件”。今も「忠臣蔵」が年末に放送されることが多いのは、この討ち入りの日付によるところが大きい。

その前年の3月に、浅野内匠頭が江戸城の松之廊下で吉良上野介に斬りかかる出来事が発生。このとき浅野内匠頭は切腹・お家断絶という厳しい処分を受けた一方で、吉良上野介は何の処罰も受けなかった。“喧嘩両成敗”が基本だった当時、それでは筋が通らない、と浅野家家臣たちが名誉のために起こしたのが“赤穂事件”と呼ばれるものだ。

赤穂事件をモチーフにした芝居が上演

その当時は、戦国時代が終わり江戸幕府が開かれておよそ100年。平和に慣れきっていた人々は、赤穂の侍たちが起こした久々の大事件に興味津々。事件直後から、事件をモチーフにしつつもドラマチックに脚色された芝居がいくつも作られ、人々を熱狂させた。

特に有名なのが、1748(寛延元)年に生まれた人形浄瑠璃「仮名手本忠臣蔵」。これが大評判となり、同じ年には歌舞伎でも同名の作品が上演され、大ヒット。赤穂事件をモチーフとした作品が“忠臣蔵”と名づけられたり呼ばれたりするのは、この「仮名手本忠臣蔵」の影響だと言われている。

講談や浪曲、落語でも、赤穂事件をモチーフとした作品は大人気。さらに、現在に至るまでたくさんの映画やドラマが作られ、2013年にはハリウッド映画「47RONIN」まで登場した。「忠臣蔵」は300年以上にわたり、日本のエンタメの代表として愛され続けているのだ。

■エンタメ要素が詰まった「忠臣蔵」の魅力

赤穂事件をモチーフに、時代を超えて愛され続ける「忠臣蔵」。この題材がそんなにも人々の心をつかむのは、エンターテインメント要素がぎゅっと詰め込まれているからだ。

物語の基礎にあるのは、忠義の心や、武士の誇り。武士の時代と今とでは社会の仕組みは全く違うが、忠誠心やプライドのため戦う姿に心打たれるのは、現代人とて変わらない。その尊さに共感するからこそ、人々は「忠臣蔵」に感動するのだろう。

リアルに起こった大事件をさらにドラマチックに脚色しているため、ストーリーも実にダイナミック。ほんの数日の間に起こる、主君の切腹・お家断絶という悲劇。苦悩する赤穂浅野家家老・大石内蔵助(おおいしくらのすけ)と、家臣たち。討ち入りを決断すると、秘密裏に計画を練り、クライマックスの討ち入りへとなだれ込む。特に、大石内蔵助のキャラクターが魅力的だ。優れたリーダーシップを持ちながら、討ち入り決断までは悩みに悩む人間くささも持っている。実に奥深いキャラクターだ。

さらに、登場人物の多さもエンタメ向き。浪士となって討ち入りに加わる47人の侍とその家族に加え、討ち入りに加わらなかった藩士にもドラマがある。それぞれの信念、弱さ…“赤穂事件”というモチーフ1つから、幾通りものドラマが生まれる。映画全盛期に作られた「忠臣蔵」には多数の銀幕スターが勢ぞろいし、オールスター物ならではの華やかさも人気を呼んだ。

そして時代劇作品のため、ダイナミックな殺陣シーンや豪華絢爛な舞台、衣装など美術も見どころだ。事件が起こった元禄期は江戸のバブル期ともいわれる華やかな時代。極彩色の美術がドラマを華やかに彩ることも多い。

エンタメ作品として見せ場の多い「忠臣蔵」。NHK大河ドラマで4回も取り上げられていることからも、その人気ぶりがうかがえる。

■「最古の忠臣蔵」が衛星劇場にてテレビ初放送

そんな「忠臣蔵」でも特に歴史的意味のある作品が、衛星劇場でテレビ初放送される。12月13日に放送されるのは「最古の忠臣蔵<活弁トーキー版>」。日本映画の父と言われる牧野省三監督と、日本史上初の映画スターである尾上松之助コンビが作り上げた作品の1本で、現存する最古の「忠臣蔵」映画だという。

国立映画アーカイブ、マツダ映画社、無声映画保存会がそれぞれ所有していた素材を編集し1本にまとめたもの。大河ドラマ「いだてん」に弁士役で出演した活動写真弁士・片岡一郎が独演形式で語りを務め、ほぼ1発録りで収録したという演奏とともに放送される。

実は、この「最古の忠臣蔵」のフィルムを“発見”した人物こそ、片岡だという。片岡は「今回の新録音は、無声映画を回顧の対象として消費するのではなく、古典作品を時代に応じた新作として再提示できる可能性を示している」と述べた。映画を“ライブ感”とともに楽しむ新しい表現方法として、活弁トーキーに触れたことのない視聴者にこそぜひ体験してほしい1本だ。

■総天然色で話題を集めた「假名手本忠臣蔵」を含む4本の忠臣蔵も放送

さらに衛星劇場では、「最古の忠臣蔵<活弁トーキー版>」の放送と合わせ、4本の忠臣蔵作品を放送する「時代劇傑作選 忠臣蔵特集」を展開する。

12月14日(木)放送の「假名手本忠臣蔵」(1962年)は、歌舞伎の超人気演目「仮名手本忠臣蔵」を映画化した作品。総天然色の美しさで公開時おおいに話題を集めた名作で、松竹の大スターたちと市川猿之助、坂東簑助ら歌舞伎役者の美の競演が見どころ。

同じく12月14日(木)放送の「義士始末記」(1962年)は昭和30年代の“忠臣蔵ブーム”に乗って制作された作品で、「假名手本忠臣蔵」に続く作品として公開された。四十七士の最期に重点を置いて描かれている。「假名手本忠臣蔵」と「義士始末記」も今回がテレビ初放送だ。

12月15日(金)放送の「喧嘩安兵衛」(1952年)は、のちに四十七士の1人・堀部武庸となる中山安兵衛を中心に描いた作品。大石内蔵助を中心とした王道ストーリーとは一味違う角度から描かれた傑作だ。

同じく12月15日(金)放送の『「元禄忠臣蔵 大石最後の一日」より琴の爪』(1957年)は、赤穂浪士のうち細川家に身柄を預けられた大石内蔵助以下十七名の切腹の日までの2日間を、浪士の1人、磯貝十郎左衛門と彼の死に殉じたおみのの悲恋を軸に描いた作品。2代目中村扇雀と扇千景の貴重な夫婦共演作だ。

300年以上にわたり、日本人に愛されてきた「忠臣蔵」。今回、貴重なテレビ初放送作品を含む「忠臣蔵特集」はその神髄を味わう絶好のチャンス。「忠臣蔵」を見たことがない、よく知らないという方こそこの機会に、その重厚な世界観を味わってみてはいかがだろうか。

最古の忠臣蔵<活弁トーキー版>/資料提供:国立映画アーカイブ