宮崎駿の名作「千と千尋の神隠し」が、2022年にジョン・ケアード翻案・演出により世界で初めて舞台化。初演から主人公・千尋役を演じ続ける橋本環奈上白石萌音に加え、新たにオーディションで同役に決まった川栄李奈と福地桃子の4人の千尋によって、2024年3月の帝国劇場公演を皮切りに日本での全国ツアー、さらに英国・ロンドンで初の海外公演として上演される。新たに作品に加わった川栄と福地の2人が、主人公を演じる思い、オーディションで感じたこと、互いの印象などを語った。

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■同じせりふでも、全く違う千尋になっていく

――大ヒット映画の舞台化ですが、まず舞台版のどこに魅力を感じられましたか?

川栄:私は、劇場で上白石さんの回を見させてもらったのですが、登場人物の再現度が映画のままでしたし、人が手で動かしているとわかるのにパペットにしか目がいかないなど、細部にまでこだわった演出が本当にすごいなと思いました。

福地:私は、生の空間で聞こえてくる音だったり、原作の千尋の魅力の上に、演じる方ご自身の動きが重ね合わされたことで生まれる楽しみも魅力の一つなんだと感じました。

一つ一つのシーンにかわいらしさが詰まっていて、そんな動きを肉眼で見られる、聞くことができる贅沢さが、舞台にはあるんだと感じています。

――特に千尋役について、もう少しお話しいただくとすると?

川栄:いま、上白石さん橋本さんが演じている映像も拝見しているのですが、同じせりふでも全然違う千尋になっていて。上白石さんの千尋には芯の強さのようなものが最初からあって、橋本さんの千尋は10歳の明るい無邪気な女の子という感じがすごく出ていて、2人とも全く違うのに、それぞれ本当にすてきで。

さらに周りのキャストの方々も日によって変わっていくので、何通りもの組み合わせになって、それによっても全然違う作品になるんだろうな、何回見ても素晴らしいだろうなと感じました。

福地:千尋はほとんどのシーンに出ているので、体力面もまず大変でしょうし…。

川栄:そうだよね。

福地:不安を抱えながら登場してくる最初の姿から、空気が風のように流れて風景が変わっていく中で、千尋がとても自然にたくましく見えてくる。すごいものをみたと印象に残りました。

初演のお二人が取り組まれた姿を追ったドキュメンタリーなども拝見して、そこから感じられる熱量。舞台版の千尋を創り上げてくださったお二人と共に、まだ稽古は始まっていませんが、今回、私たちが演じさせていただくことになりましたから、思いをつなぐという気持ちです。一緒にすてきな作品に携われることにとても感動しています。

■千尋を通してジョン・ケアードさんと会話できた

――お二人はオーディションで千尋役を勝ち取られたということですが、そもそも千尋役にチャレンジしたいと思った原動力はなんだったのですか?

川栄:私は原作映画が大好きで、舞台化されると聞いた時から「絶対に見たい!」と思っていました。ちょうど上白石さんとNHK連続テレビ小説を一緒にやらせてもらっていたので、幸運にも見ることができ、先ほども言いましたが本当に感動して。

千と千尋の神隠し」は、海外の方もよくご存じなほど有名な作品ですし、私自身ジブリ映画の中でも一番好きで、小さい頃から何回も見ていたので、その千尋役を演じられるというところに引かれました。

福地:私も舞台を見たいと思っていたのですが、チケットが全然なくて。

川栄:そうそう!すぐ売り切れちゃったから。

福地:それで、オーディション前は映像を拝見して、想像を膨らませて受けたのですが、その映像からでも体が震えるほどのすさまじい感覚があって。「肉眼で見たい、見たかった!」といまもずっと思っている舞台へのリスペクトもありましたし、私も映画が大好きで。

3歳の時に、4歳の兄と二人で「どうしても初日に見にいきたい!」とせがんだんだそうです。それで母が映画館に並んでくれて見ることができたんです。そういう経緯は後に母から聞きましたが、映画自体を見た感動の記憶はいまも残っているほどなので、演じたいと思いました。

――そのオーディションに臨まれた時の気持ちや、ジョン・ケアードさんからかけられた言葉など、印象に残るエピソードはありますか?

川栄:オーディションなのですが、どこかワークショップのような感覚で、私が演じたことを絶対に否定せずに「それもいいね。とてもいいから、もっとみんなに問いかけてみたらどうなるかやってみて」という導き方だったので、自分でも一つ一つ納得しながら進めました。

それから私はまもなく29歳になるので「君は10歳だ、大人じゃないんだ」と言われました。やっぱり「10歳の千尋」ということを本番も一番意識して演じないといけない、と思っています。

福地:ジョン・ケアードさんには一瞬で和ませてもらえる雰囲気が感じられて。まずお話させていただいている時には、自分がまだ10歳ではないんです。でもそれを分かっていらっしゃる中で、じゃあ実際に台本を演じてみよう、となった時に「10歳になる」というところを動きから、体から創るんです。せりふを言う姿を見る、というよりは10歳になった千尋の姿を、私の体に投影させて見てくださっているような感覚がありました。

それがとてもやりやすさにつながっていって、そこからおにぎりのシーンや千尋の心の動きが見えるような印象的なシーンを演じて、ジョン・ケアードさんと千尋という役を通して会話できたような気がしたので、稽古に入るのがますます楽しみです。

■その場で湧き上がった感情を大切にしたい

――お二人共「千と千尋の神隠し」がそもそも大好きだったとのことですが、それだけの魅力を感じたのは、どんなところですか?

川栄:初めて見た時は小さかったので、千尋を10歳の子供とは思わないで見ていたんです。でも今こうして自分が演じるとなって改めて作品を見返すと、こんなに小さい子どもが頑張っていたんだ!という、その必死さ、一生懸命さがすてきだなと思います。

福地:私が幼心に感じたのは、でてくる生き物たちの力強さに衝撃をくらった感じ。そしてよくこんなに怖い世界に飛び込んでいくな、ということでした。

とても奇妙な雰囲気がずっと続いてるのに目が離せないものがあって。その怖かった印象が大人になると、リアルな世界ではないのに、キャラクターの人間味や場面の数々がとてもリアルに感じられて。

そういうところをもしかしたら子供は真っすぐに信じることができるのかなと。そんな二つの面からこの作品を見て楽しいと感じましたし、これからもそうした楽しみがもっと広がっていく、舞台を通してそうなっていけたらすてきなことだなと思います。

――演じる上で特に楽しみにしているシーンはありますか?

川栄:オーディションの時に、ハクからおにぎりをもらって号泣するシーンをやらせてもらったのですが、そこはとても印象的なシーンでいいなと思っていたんです。

でも、いざ舞台で一連の流れを通して見ていると、走り回って、走り回って、極限の状態の千尋だったので、見ている時にはとてもいいのですが、演じるとなると心の動きも大変な場面なんだなと思いました。

福地:私がオーディションで印象に残っていたのが、ハクを助ける、釜爺に電車のチケットをもらうシーンでした。映画を見た時にも印象的だったシーンなので、演じようとか、見せようとするのではないところ、自分の中に生まれた感情を大事にできるシーンなのかなと思っています。

もちろん、いろいろなところで各々の千尋の魅力を引き出していただく瞬間ってたくさんあると思いますが、いま自分が演じてみて湧き上がった感覚を大事にしようと思えたシーンなので、そこがどんなふうに変化していくのかが、とても楽しみです。

■もちろん頑張るけれども、頑張りすぎずに

――“生”の舞台の魅力をどう感じていらっしゃいますか?

川栄:いつも舞台はとても緊張してしまうのですが、見てくださる方にもそういう緊張感を含めたさまざまなものが、良い意味でダイレクトに伝わるのが舞台の良さでもあると思うんです。

その日の調子もありますし、せりふを言い間違えることも時にはあります。でもそれをすべて感じとれるのが舞台のいいところだと思っているので、もちろん頑張るんですけど、ある意味で頑張りすぎず良い緊張感を持って、お客様と一緒にその日の空気感を味わえるように、少しでも余裕を持って演じられたらいいなと思っています。

福地:「橋からの眺め」で、舞台って一人でやっている感覚になる時間は一度もないんだな、と教えてもらったすごく貴重な経験だったので、今日も川栄さんがお隣にいてくださって、心強いです。

これから橋本環奈さん、上白石萌音さんと共に時間を過ごせたり、自分自身もそこに力を注いで、素晴らしいチームの皆さんと良い緊張感を保ちながら千尋役を楽しめるように、お客さまに楽しんでいただけるようにできたらなと思っています。

――その千尋役が今回4人いらっしゃる訳ですが、他の方たちをどう意識していますか?

川栄:4人ワンチームで作っていけたらいいなというのと、やっぱり橋本さん上白石さん、もちろん他のキャストの方々がここまで創り上げてくださったものがあっての舞台なので、私たちが入ることでさらにパワーが増したよね!と思ってもらえるものにしたいな、と思っています。

福地:こんなにも強い味方がいてくださるという経験もなかなかない中で、あの表情の裏側にはどんなことがあったのかを知ることができるというワクワクもあります。

いまワンチームとおっしゃってくださったように、プラスになれるように、皆さんの背中を見ながら、そして自分も発信できるように、取り組んでいけたらいいなという思いです。

――その4人の千尋の中で、自分のチャームポイントはここだ!を教えていただくとすると?

福地:自分のというよりは、まだ見たことない川栄さんの千尋を見るのが楽しみです。舞台ならではの動きがすごく難しいとおっしゃっていましたよね?

川栄:しなやかな動きと言うのか、座っている状態からいきなりパッと立ったり、服を引っ張られて困ったりとか、一生懸命やってみたのですが難しくて! 橋本さんも上白石さんも、それがものすごくうまいんです。

福地:あぁ、分かります

川栄:映像を一時停止して勉強していますが、そこは先輩に教えてもらいながら良いところを吸収しようと思っています。自分はどうなるのか?はまだ自分でも分かっていない段階です。

福地:その千尋の動きの面だけで見ると、これは訓練だなと思いますよね。

川栄:そう、体力がいるよね。ただ、こうしてきちんと話すのは今日が初めてくらいなんですけど、(福地は)すごくふわふわしているんです。この雰囲気で、稽古場でものすごく鋭かったらどうしようと思うくらい(笑)。ふわ~んとした空気が流れているので一緒に稽古をしていくのが楽しみです。

福地:よろしくお願いします。

川栄:こちらこそ!

福地:川栄さんは尊敬する俳優さんのお一人だったので…。

川栄:そんなぁ~(笑)。

福地:本当です。ですからお稽古を一緒にさせていただける時間の全てが学びだなと思っています。その上で私がふわふわという感じなのだとしたら、川栄さんはちゃきちゃきしてますよね。

川栄:そうなんです! 私すごくせっかちだから、きっとお互いの時間軸が全然違うだろうなと(笑)。そのふわふわ感がすごくすてきです。

■誰に対してもフラットな、安心できるお姉さん

――そんなお二人が同じ千尋役を演じることへの期待が高まりますが、この機会にお互いに聞いてみたいことはありますか?

川栄:聞いてみたいことですか? なんだろう?

福地:合間でもコミュニケーションをきちんととってくださるので、ここで改めてというと、なんでしょう…。

川栄:普段は人見知りなんですけど、年下の子が大好きなので、今日はすごく喋れてる。

福地:そうなんですね?

川栄:だから、これからもすごく喋れそうだなと思ってる。

福地:あぁ、それが伺えてうれしいです! お姉さん気質って言われたりしますか?

川栄:それはよく言われます。

福地:誰に対してもフラットな印象があったのですが、お会いしても同じだったので、安心できるお姉さんというのをとても感じます。

――では改めて、そんなお二人が臨まれる日本と英国ロンドンで上演される舞台「千と千尋の神隠し」への意気込みをお願いします。

福地:世界中から愛されている「千と千尋の神隠し」が、より多くの方に見ていただける機会に恵まれたのは素晴らしいエネルギーだと思います。

そこに参加させていただける緊張感もありながらも、自分が走り抜けた時に悔いのないよう一生懸命頑張りたいです。

川栄:これまでの公演で、「チケットが取れなくて見に行きたいのに行けなかった」という方がたくさんいらっしゃると思うので、今回いろいろな所に行くことによって、より多くの方に見ていただけたらと思っています。私たちは初めてなので緊張もありつつですが、海外の方にもたくさん見に来ていただけたらうれしいです!

舞台「千と千尋の神隠し」で主人公・千尋役を演じる川栄李奈と福地桃子/(C)東宝