経営者の公的年金は、「会社の社長」が加入する「厚生年金」と「個人事業主」が加入する「国民年金」とで大きく異なります。各年金の保険料と受け取り額の関係性等について、中小企業の財務・税務に詳しい税理士・関根俊輔氏の著書『改訂6版 個人事業と株式会社のメリット・デメリットがぜんぶわかる本』(新星出版社)から一部抜粋して紹介します。

個人事業主は「国民年金」、会社の社長は「厚生年金」に入る

公的な年金保険は、老後の生活を支えてくれる大切な制度です。

会社の社長をはじめ、会社から給料をもらう人は、基本的に、社会保険の健康保険と厚生年金保険は、セットで加入しなくてはなりません。つまり、医療保険は健康保険に、年金保険は厚生年金保険に加入します。

これに対して個人事業主は、社会保険には入れないので、国民健康保険と国民年金に加入することになります。

国民年金厚生年金との違いをひと口でいうと、「保険料を多く払って、年金が多く戻ってくる」ほうが厚生年金になります。

国民年金の毎月の保険料負担は約1万6,520円で、もし配偶者が職に就いていなくても、その分も納付義務が発生します。一方、厚生年金の毎月の保険料負担は、会社負担と合わせて、給与月額に約18.3%をかけた金額です。支払う保険料が国民年金よりも高くなりますが、その分、受け取れる年金額も高くなります([図表1]参照)。

たとえば、月給40万円の場合、厚生年金保険料は約7万5,000円となり、これを会社と加入者本人が折半して納めます。ちなみに、同じ条件で健康保険の保険料を計算すると、約4万7,000円となり、厚生年金保険料との合計の月額はなんと約12万円にもなります。

「個人事業」と「社長1人会社」では年金・健康保険料の差は?

個人事業主が支払う国民健康保険・国民年金の合計保険料と、社長1人だけの会社が支払う健康保険・厚生年金保険の合計保険料は、いくら違うのか見てみましょう。

健康保険も年金も、加入者の月給(標準報酬月額)によって、支払う保険料が違ってきます。

まず、健康保険の月額保険料で比べると、たとえば月給30万円の会社社長が支払う健康保険料は、会社負担分と自己負担分を合わせて約3万円。一方、同じ月給(所得金額)30万円でも個人事業主の場合は、支払う健康保険料(国民健康保険料)は約4.1万円となり、個人事業主のほうが約1.1万円多く保険料を支払うことになります。

ところが、月給60万円となると話は違ってきます。月給60万円の会社社長の健康保険料(会社負担+自己負担)は約6万円で、同じ月給(所得金額)60万円の個人事業主の健康保険料は約5万円となり、会社社長のほうが約1万円多く保険料を支払うことになるのです([図表3]参照)。

また、年金の月額保険料は、会社社長が支払う年金保険料(会社負担+自己負担)のほうが、個人事業主が支払う年金保険料よりも多くなります([図表4]参照)。

結局、年間トータルで見ると、会社社長のほうが個人事業主よりも保険料を多く払うことになります([図表5]参照)。

 

受け取る「年金支給額」はどう違うか

ただし、厚生年金は、保険料の負担は大きいものの、これに見合うように十分な給付が約束されています。老後(年金の受給開始後)にもらえる年金額は国民年金の額を上回りますし、障害年金や遺族年金の支給額も、国民年金のそれを上回ります。

なお、厚生年金の場合、保険料は半分は会社が負担してくれて、しかも、会社負担分についても「法定福利費」として会社の経費に計上されるというメリットもあります。

これらのことを考慮すると、基本的には、社長のほうが個人事業主よりも断然お得ということになります。

国民年金厚生年金の受給額の違いを、ざっくりと比べてみましょう。国民年金を多くもらうコツは、納付月数を増やすことです。これに対し、厚生年金を多くもらうコツは、納付月数もさることながら、お給料の月額を多くもらうことです。

まず、国民年金で受け取れる将来の年金額を試算してみましょう。国民年金で最大もらえる額は、今のところ年額で約80万円です。これは40年、つまり480ヵ月間支払い続けた場合の金額であり、支払い期間がこれより短い場合は、保険料を支払った月数の割合に応じて支給されます。

たとえば、480ヵ月のうち360ヵ月分だけ支払ったのであれば、〈80万円×(360ヵ月÷480ヵ月)=約60万円〉となります。なお、今後は10年以上支払わなければ(免除期間を含む)、いっさい支給されないので注意してください。

次に、厚生年金の受給額を計算してみます。厚生年金は「定額部分」と「報酬比例部分」「加給年金」の3つに分かれます。ここでは、およその最低額を計算するので、「定額部分」は国民年金の支給額とほぼ同じとします。また「加給年金」はないものとします。

最後に残った「報酬比例部分」は概ね〈平均の給料月額×7÷1,000×支払った月数〉で試算できます。

たとえば、平均月収が40万円で、360カ月分を支払ったのであれば〈40万円×7÷1,000×360=約100万円〉です。国民年金と比べると、毎年約100万円も多く年金がもらえることになります([図表2]参照)。

もし、自分の納付月数がわからないとか、もっと詳細なシミュレーションをしたい場合は、日本年金機構から毎年送付されてくる「年金定期便」を見ると、より精度の高い試算ができます。

ところで、じつは残念なことに厚生年金には決定的なデメリットがあります。それは、60歳以降もなお社会保険に入りながら、立派に会社を運営していると、「在職者の老齢厚生年金」(在職老齢年金)という制度にひっかかってしまうことです。

これは、社会保険に加入するくらい働いていて、給料をもらっている人には、なるべく年金の支給を我慢してもらいましょう、という趣旨の制度です。最悪の場合、年金をまったくもらえない時期も出てきます。

本記事では詳細には立ち入りませんが、この制度によって「もらえるはずの年金が、もらえない」ということがないように、受給開始年齢になる前に、給料の額を調整する必要もあります。

関根 俊輔

税理士法人ゼニックス・コンサルティング

税理士

(※写真はイメージです/PIXTA)