いまや日本人の2人に1人がかかるともいわれている「がん」。もしがんと診断されてしまったら、どのような治療を受ければいいのか、また、どれだけ費用が掛かるのか、本人のみならず、ご家族も非常に気になるのではないでしょうか。今回は、がん治療の費用の実情と役立つ制度とその活用方法について、FP資格も持つ公認会計士税理士の岸田康雄氏が解説します。

40代の若さで、息子が肺がんに…心配でたまらない70代父

先日、40代前半の息子が肺がんの宣告を受けました。幸い、初期段階での発見であり、治療の選択肢が複数あることから、希望は持っていますが、話を聞いた当初はショックで泣き崩れてしまい、しばらくは夜も眠れませんでした。

なぜ病気になったのが70代の私ではなく、まだ子どもも幼い40代の息子なのかと、本当に悔しく、かわいそうでたまりません。

しかし、心配なのは治療費のことです。がんはなにより治療費が高額だと聞いています。私は年金生活であり、あまり援助してやれないのがもどかしいです。

息子ががん保険に入っているのかどうかはわかりませんが、やはりいまの時代、がん保険は必須なのでしょうか? ほかにも、なにか治療費の負担が軽くできる方法はあるのでしょうか? なんでもいいので教えてください。

70代男性(足立区在住)

70代の相談者の方は、まだ40代の息子さんががんにかかり、大変なショックを受けています。同じ状況になれば、きっとどなたも同じ気持ちになるのではないでしょうか。

もしご自身やご家族ががんにかかったら、治療の経過や結果に気を揉むだけでなく、治療費にいくらかかるのか、その点も不安になってしまうでしょう。

大丈夫。費用面の不安を軽減し、治療に専念できる制度がある

しかし、あまり心配しなくても大丈夫です。

日本には、医療費や保険の費用面の不安を少しでも減らし、治療に専念できる制度があるからです。それが「高額療養費制度」「多数回該当」「傷病手当金」です。

◆高額療養費制度

「高額療養費制度」とは、1ヵ月あたりの負担上限額が年齢や収入によって決まっていて、それを超えた分のお金があとから戻ってくるという制度です。

たとえば、年収370万円以上770万円未満の人の場合、1ヵ月で治療に100万円かかったとしても、高額療養費制度を使えば、ひと月あたりの自己負担が約9万円程度に抑えられます。

具体的には、胃がんと診断され、窓口負担3割で、検査費用4万円、手術のための入院費用26万円と、ひと月の治療費の支払額が合計30万円だった場合、「高額療養費制度」を利用すると、約21万円が高額療養費として支給される、ということになります。

「高額療養費制度」を使う際には、会社員なら協会けんぽや健康保険組合、自営業なら市区町村への申請が必要です。

注意が必要なのは、高額療養費申請しても、上限を超えた分のお金が戻ってくるまでに数ヵ月かかるという点です。そのため、制度を利用する際には、早めに高額療養費を申請し、「限度額適用認定証」をもらっておくことをおすすめします。

限度額適用認定証を病院窓口で提示すれば、自己負担限度額を超える分を窓口で支払う必要はなくなります。

また、マイナンバーカードを保険証として使っている場合は、限度額適用認定証がなくても限度額までの支払いで済むうえに、そもそもの申請も不要になります。マイナ保険証の活用も検討してみてください。

◆多数回該当

手術後に抗がん剤治療を長期間続けることになると、高額療養費制度で治療費の負担を抑えられたとしても、毎月かなりの費用がかかり続けることになります。

そのような場合に使えるのが「多数回該当」の制度です。「多数回該当」とは、1年間に高額療養費の対象に3回なると、4回目からは自己負担額がさらに減額される、という制度です。

ただし、国民健康保険から健康保険組合に加入したなど、保険者(健康保険組合、協会けんぽ、共済組合、国民健康保険など)が変わった場合には、支給回数は通算されないため、注意が必要です。

◆「傷病手当金」(会社員のみ)

「高額療養費制度」「多数回該当」に加え、会社員なら「傷病手当金」の制度も使うことができます。

これは、病気やケガが原因で連続する3日間を含み4日以上仕事を休んだ場合、会社からその分の給与が出ない場合は、給与の3分の2の金額をトータル1年半までは受け取ることができる制度で、受け取りには協会けんぽや健康保険組合への申請が必要です。

残念ながら、自営業の人などが加入している国民健康保険には傷病手当金の制度はありません。

がんの「先進医療」の実情

インターネットやSNSでは、がんの「先進医療」の情報や患者体験談を見かけることもあります。

特定の大学病院などで研究・開発された難病などの新しい治療や手術などは、ある程度実績を積んで確立されると、厚生労働省に「先進医療」として認められます。 先進医療は、公的医療保険の対象にするかを評価する段階にある治療・手術などです(「公益財団法人生命保険文化センター」ウェブサイトより)。

先進医療として比較的よく知られているのは、放射線治療の「陽子線治療」、「重粒子線治療」、内視鏡手術支援ロボット・ダヴィンチを使用した患部の切除手術「ダヴィンチ手術」などです。

陽子線治療は、水素の原子核を加速した陽子線をがんの患部に照射する方法で、重粒子線治療とは、炭素の原子核を加速させた重粒子線をがんの患部に照射する方法です。どちらも粒子線を使う治療法なので、ピンポイントで病巣に照射することができます。照射の回数が少ないため、身体への負担が少ないというメリットがあります。

先進医療は、治療効果に関する科学的証拠が少なく不確実な医療とされていることから、健康保険の対象外です。それゆえ、治療そのものは全額自己負担となり、たとえば、重粒子線治療の場合、1件あたり300万円と高額な費用がかかります。

しかし、先進医療の医療費は、一般的な自由診療とは異なり、確定申告の「医療費控除」の対象となります。

がん保険、必ずしもメリットばかりとはいいきれない

がん保険に入っていれば、診断給付金、入院給付金、手術給付金、通院給付金がもらえます。また、先進医療特約がついていれば、先進医療の医療費も全額カバーしてくれます。

しかし、高額な先進医療の費用をカバーができるといっても、そもそも自分に適用できる先進医療の治療法と出会う確率はそこまで高くありません。さらに、仮に適用できるものが見つかっても、100万円を超える先進医療はあまり多くはないのです。

また、がん保険では、差額ベッド代や、厚生労働省が定めていない自由診療の医療費に関しては、カバーされません。

がん保険は保険料がとても高額であり、払い損になってしまう可能性が高いため、がん保険に加入を優先するよりは、ご自分でお金を貯めておいたほうがいいでしょう。

岸田 康雄 公認会計士税理士行政書士宅地建物取引士中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

(画像はイメージです/PIXTA)