成長株を見つけ出すのに重要なのが『会社四季報』の通読です。初心者でも始めやすい四季報の読み方について、人気投資ブログ「エナフンさんの梨の木」の筆者であり、会社員投資家である奥山月仁氏が解説します。奥山氏の著書『個人投資家入門byエナフン 株で勝つためのルール77』(日経BP)より、詳しく見ていきましょう。

「継続は力なり」が実を結ぶ

割安な成長株を探索する方法として、私が実践しているのは、東洋経済新報社が発行している季刊の株式投資情報誌『会社四季報』(以下、四季報)の通読である。

「えぇ~。あんな分厚い本を3ヵ月に1回読破するなんてあり得ない!」。この話をすると、多くの人は驚きと拒絶の反応を示す。

しかし、考えてみてほしい。毎日つらい思いをして会社で働いても、1年間に貯められる金額は本当にわずかだろう。仮に100万円貯められたとして、その努力を10年間継続してようやく1,000万円だ。

一方で真剣に成長株を探して10倍株を見つけて100万円分買えば、あとは何もしなくても100万円を1,000万円に増やせる。10倍株は無理にしても、買値から2~3倍に値上がりする株でも、金銭的な余裕は一変するはずだ。そのための努力として四季報を読む程度の手間は十分に割の合うものだと思うが、いかがだろうか?

四季報通読のメリットの1つ目は、上場企業を網羅的に知ることができる点である。四季報に掲載されている3919社(2023年4集秋号)という企業数は確かにとても多いが、手に負えないほど膨大な数でもない。大学受験に必要な英単語数(センター試験に必要な単語数は5000語と言われている)よりも少ない数字だ。

単語力がないと英語の試験で高得点が狙えないのと同じく、企業についての知識がないと大化け株を見いだす力も不足する。四季報が発行されるたびに読み込めば、次第に企業名やその会社の概要が頭に入ってくる。

しばらくは結果が伴わないかもしれない。しかし英単語学習と同様に、この取り組みはいつしか結果を出し始め、それに合わせて実力も着実に付いてくるはずだ。

2つ目のメリットは、読み続けることで相場観が身に付くことだ。すべての企業のPER、PBR、ROE、時価総額といった主要な株価指標の数値をざっと流し読むことで、市場は大体どのくらいの水準を妥当と判断しているのか、おおよその数字を感覚的につかめるようになる。

自分の保有銘柄だけを見ていると、まだまだ値上がりする気もするし、逆に値下がりしてしまうのではないかと不安にもなる。多くの企業の現実の数字を知ることで、自分の保有株が割安なのか割高なのか判断軸を持つことができるのだ

相場は生き物である。ネットか何かで、「PER10倍以下、PBR1倍以下は割安と判断できる」などといった知識を得たとしても、それだけでは使えない。割安には割安である理由が存在するからだ。

その理由を1つひとつ理解しながらPERやPBRを確認することで、初めて割安か割高かという真の判断ができるようになる。その力を付けるために四季報を読むのである。

3つ目のメリットとしては、四季報を通読することで、成長株を見つけるチャンスが広がることだ。普段、いくらアンテナを高く張っていても、心理的な盲点にはまって、それが投資のネタだと気付かないことがある。ところが、四季報で具体的な企業情報を知ることによって、急にパズルのピースが埋まるように、有望株を発掘できることがある。

最後の4番目のメリットとして、値上がりする株の傾向がつかめる点を挙げたい。通常は四季報に掲載されている企業の中から有望と思われる企業をいくつかチェックしておき、その後、そこからさらに有望な選りすぐりの企業のみを購入する。このような手順で丹念に企業情報を調べ続けていくことになる。

その中で、チェックはしたものの、「買わない」と判断した銘柄のほうが大きく上昇するケースが結構出てくる。「しまった。この株がこんなに上がっていたとは……」。恐らくあなたはこんな悔しい思いを何度も味わうことになるだろう。

ここで「悔しいからこの会社のことはもう二度と調べない」と思わずに、「なぜ、こっちの株のほうが値上がりしたのか」と原因を丹念に調べる。そうすることで、株価が上昇する理由を極めて実践的に理解することができる。

最初は興味の湧く銘柄だけ、ポイントをパッと見てさっと判断

結局はこの繰り返しである。この繰り返しが実力となり、投資力という本当の財産を手にすることができるのである。

ただし、投資初心者がいきなり四季報を読破するのは確かに敷居が高い。そこで初心者の方に対して私がお薦めしたいのは、あなた自身がよく知っている、つまりあなたの強みが生かせる企業だけを読む方法である。

最初のページから猛スピードで読み飛ばしていき、興味の持てる銘柄だけをじっくり読むだけでもよい。それでも100銘柄くらいはあるだろう。その数を少しずつ増やしながら株の楽しさを体感していけば、いずれは四季報を通読せずにはいられなくなるはずだ。

企業名と特色、各種の指標(PER、PBR、ROE、ROA、時価総額、自己資本比率、キャッシュフロー、有利子負債、予想配当利回りなど)、株価チャートと業績の推移をパッと見て、割安さや成長性の観点から「買えるものか、買えないものか」を判断していくのだ。

最初は時間がかかるかもしれないが、やることはワンパターンだ。図表に示したポイントをパッと見て、さっと判断する。この繰り返しだ。慣れてくれば、1週間程度で読破できるようになるだろう。

数字は絶対値で評価しないで比較する

各々の株価指標は、その絶対値で割安度を判定してはいけない。VE投資法の考え方に沿って、業績の推移も勘案して今後の成長性(業績の伸び)に対して割安かどうかを検討しなければならない。

同じことは、自己資本比率や有利子負債、キャッシュフローといった財務の健全性に関する指標についても当てはまる。業態やビジネスモデルを考慮しながら、複数の指標を照らし合わせて総合的に判断する。

例えば、有利子負債の数字だけを見て借金が多いと判断してはならない。同時にキャッシュフローの最下段に記載されている現金同等物の額と比較して保有現金に対して借金は過大かどうかを見たり、時価総額と比較して企業の規模に対して借金が過大かどうかを調べたりして、財務の健全性を総合的に判断していく。

見つけた有望株を比較検討する

四季報を1冊読破すると、有望株を数十銘柄は見つけることになると思う。次にすべきは、これらの有望株同士の比較、さらに既に保有している銘柄との比較だ。それらの比較の結果、選りすぐりの数銘柄だけを購入するようにする。この最後の選別によって投資力が養われるのである。

整理すると、「四季報で有望株を探す→ホームページなどで詳しく調べる→他の有望株や保有銘柄と比較する→株式の購入に踏み切る」という手順になる。

「SNSやネットの掲示板で話題になっている株を買う」といった初心者が陥りがちな投資行動との大きな違いは、深さと広さだ。初心者はどうしても視野が狭くなりがちで、話題になっている噂のようなものに意識を集中させてしまう。そうではなく、幅広く銘柄を調査して、有望株については深く研究した上で他の銘柄と比較検討するという手順を身に付けよう。

割安さや成長性の観点から何の興味も持てないような銘柄については、特に時間をかける必要はない。パッパ、パッパと読み飛ばして時間を節約しよう。もしかすると、読み飛ばした中にも大きく値上がりする銘柄があるかもしれないが、「ご縁がなかった」くらいに思って執着しないことだ。

四季報通読の注意点

最後にいくつか注意点を挙げておきたい。まず、各社の四半期決算が発表されてから四季報が発刊されるまでには1ヵ月かそれ以上の時間差がある。データの新鮮さという観点からは価値が低く、短期トレードには向かない。あくまで中長期投資を前提にしてほしい。また、同じ理由から発売直後に気合を入れて誰よりも早く読破するという努力も空しい。

1ヵ月以上かけて読破しても別に問題ないし、購入候補を選んでおいて、次の四半期決算の内容を見てから買うという判断でも、間に合うケースがある。

大きなサプライズでもない限り、業績の反映やそこから生まれる割安さの是正といった株価の変動は、決算発表の直後に瞬時に解消されるものでもない。数か月がかりで徐々に修正されるケースも多い。素早さよりも正しく見る目を鍛えることが重要である。

奥山 月仁 会社員投資家

(※写真はイメージです/PIXTA)