北朝鮮では昨年10月から、国営工場、企業所、機関で賃上げが行われている。平壌紡績工場では月給が2300北朝鮮ウォン(約39円)から、5万北朝鮮ウォン(約850円)へと21年ぶりに引き上げられた。

また、両江道(リャンガンド)でも2000北朝鮮ウォン(約34円)から2500北朝鮮ウォン(約42.5円)だったのが、3万北朝鮮ウォン(約510円)、3万5000北朝鮮ウォン(約595円)に引き上げられたという。

重要度の高い企業所からまず始まった賃上げが、全国的に拡大されていると米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、安州(アンジュ)にある南興(ナムン)肥料工場の従業員の月給が、2300北朝鮮ウォンだったのが、4月から5万北朝鮮ウォンに引き上げられたと伝えた。

「工場労働者の給料が20倍になり、労働者は月給で1カ月分の食料を購入できるようになった」(情報筋)

5万北朝鮮ウォンを持って安州市場に行くとコメは18キロ、トウモロコシなら40キロが買える。しかし、当の労働者の反応は今ひとつだ。

「引き上げられた月給だが、5000北朝鮮ウォンの『トンピョ』で支払われる。市場で生活必需品や食糧を買おうにも、商人に受け取ってもらえず、せっかくの賃上げの効果は大きくない」(情報筋)

2021年から発行が始まったトンピョ(金券)だが、機能的には紙幣と同じだ。本来は外貨の代替として渡されるものだが、信用が低く受け取ってもらえないことが多い。

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、龍川(リョンチョン)郡の灌漑管理所でも4月から月給が5万北朝鮮ウォンに引き上げられたと伝えた。地域では、楽園機械工場が他に先駆けて昨年10月、賃上げを実施した。4月からはすべての工場、企業所で行われている。

だが、ここでも支払いはトンピョで行われる。

トンピョを持って市場に行っても紙くず扱いされて誰も受け取ってくれない。たまに受け取ってくれる商人もいるが、額面は5000北朝鮮ウォンでも6割の価値しか認めてくれないので、賃上げしても意味がない」(情報筋)

紙幣ではなくトンピョを発行する明確な意図がわからないため、商人たちは2009年の貨幣改革のときのように、突然廃止されて本当に紙くずになることを恐れているのだろう。

市中に流通するトンピョが増えたために北朝鮮ウォンの価値が下がり、米ドルや中国人民元に両替する人が増えたとのことだ。新義州(シニジュ)の市場では1ドルが8600北朝鮮ウォンで取引されており、4月を境目にして、ウォン安の傾向が強まっている。

給料をトンピョで支払う意図だが、おそらく国営米屋の「糧穀販売所」などの国営商店での消費を誘導するためと見られる。

金正恩氏が北中企業所と重要軍需工場を現地指導した(2023年9月3日付朝鮮中央通信)