こんにちは、シューフィッターこまつです。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。

ニューバランス(以下、NB)は、過去20数年間でのべ20足以上履いてきました。現役でも3足をオールシーズンで履いています。本社のあるアメリカではドクターとともに徹底的に足のことを分析し、シューフィッターの目を通しても、完璧に近い答えを出してくるメーカーです。しかし、その一方で、アタリとハズレが混在し、安心して買えないメーカーでもあるのです。

だからこそ言いたい。なぜこんなにデザインが似ているのに、説明なしで「売りっぱなし」なのか。公式サイトには細かい説明は書かれていますが、一般人が読んでも専門用語ではまったく意味不明でしょう。今日はそんなNB愛好者の筆者が、わかりやすく「おすすめのモデル」と「おすすめできないモデル」を紹介していきます。

◆米英国製は高く、アジア製は安い

まず前提として、似たデザインなのに価格差がこれほどあるのはなぜか。高いものは4万近く、安いものは数千円で販売されています。理由は生産国の違いです。3万円オーバーのモデルはアメリカ製かイングランド製で、2万円以下のモデルはアジア製です。米英国製はシンプルに工賃が高く、かつ輸入される際に20%~30%ほどの関税がかかります。これがスニーカーのくせに異様に高い理由。

対照的にアジア製は、人件費こそ高騰中ですが、関税が比較にならないほど安く、国によっては0%に近いところもあります。かといって著しく品質が落ちるわけではなく、インドネシア製の「996」を10年近く履いていますが、3万円オーバーのNBより長持ちしています。

◆高級NBの天国。おすすめは「Made in USA 990 v6 GL6」

まずはオススメ。「Made in USA 990 v6 GL6」。3万6300円。いわゆる「フラッグシップモデル」と呼ばれる、NBの看板です。大谷翔平がプライベートで履いてるのもこれと同じ。アメリカ製というだけあって高いですが、履き心地は100点満点。

外見は、ただのジョギングシューズです。似た商品を3000円程度で見かけることもあるでしょう。しかし履いたら2秒で納得できます。カカトのカーブクッションと安定、トウの締め付け感とリリース感、なにより服と合わせたときの雰囲気の化け具合。最高級・最先端の素材を適材適所に使用し、木型を徹底的に研究しているので、履くと「どこも当たってないのに、どこも当たっている」という極上のフィット感が味わえます。

さらに代表色のグレーは旗艦店だとサイズのみならず、幅も3種類から選べます。ややタイトなDから、超幅広の4Eまで。絶対にフィットさせてやるというNBのプライドをビシビシ感じます。スポーツショップには珍しく、10年以上前からシューフィッターが常時在籍している店舗もあるので、高い買い物でも安心して委ねられるでしょう。「990」シリーズは筆者も過去異なるタイプを4足履きましたが、後悔したモデルは下記の「998」だけです。

◆日本人のカカトには合わない「Made in USA 998」

はげしく後悔したのが同じくアメリカ製の「998」。3万7400円。幅はD(やや狭い)のみ。もちろん個人差はありますが、日本人特有の「小さくて絶壁カカト」とはもっとも相性が悪いと思います。私も去年まで頑張って2年ほど履いていましたが、ギブアップ。とにかくかかとのカーブの設計が「スーパーストレート」で食いつかず、紐を全力で締めてもスポスポ脱げてしまう。加えて扁平足の方は(私もですが)、内側に極端に倒れやすく、カカトが遊ぶのでまちがいなく靴の内側に穴も開きます。

発売された1993年当時は、このカカトのカーブや内側にねじれるソールの設計が正解だったのですが、30年たって時代は変わりました。今のシューズで極端に内側に倒れる設計のものはまずありません。「998」はNB直営店だけではなくセレクトショップでも販売されていますが、履いてる方の足元を見るともれなく内側に倒れこんでいます。ネンザの原因にもなりますし、履いていてまったく快適ではありません。要注意モデルです。

◆低価格NBおすすめ、ハズレなしの鬼コスパ「996」

こちらはアジア製の低価格帯の代表「996」です。定価では1万6280円ですが、カラーバリエーションが豊富で回転が早いので、ABCマートなどでは1万円ちょっとで手に入ります。私も愛用していますが、履き心地に何の不満もありません。35年前から何も変わらないデザインで、その存在感はまるで生きた化石に近い「サメ」。最低限のパーツでありながらカカトのブレを抑えるスタビライザーや、親指の破れを防ぐ天然革のパーツの独特のラインは数多くのメーカーのお手本になりました。

お値段なりに靴の幅は「D」一択なのですが、足の骨格の伸縮を考慮されたデザインなので、私のような「3E」幅の足でも不思議にストレスなくフィットします。本来はガチのランニングを考慮してるので、つま先の余裕(捨て寸)が程よい長さで品がよく、服のコーディネートにもうまくハマります。ソールのC-CAPという衝撃吸収材も加水分解に極めて強いので、長く付き合えてコスパは抜群。私はメンテしながら10年履き続けています。はじめてのNBであれば、ハズレのない1足です。

◆おすすめできない低価格NB「373

残念ながら本当にほめるところが一つもないモデルが「373」です。見た目は数万円のNBとまったく変わらないのですが、「足のことを考える」NBのよさが一つもありません。スーパーのワゴンで3000円で叩き売られているスニーカーと同レベル。

というのも、NBのよさは「足の形なり」にバナナみたいにぐにゃっと曲がっている構造ゆえなのですが、373は何の工夫もない直線の木型。「つくりやすいけど、履きづらい」靴の典型なのです。スエードに見える部分も合皮です。合皮にも優劣があって、天然革と見分けもつかず耐久力も革以上、というものも増えてますが、残念ながらただの「フェルト」や「ビニール」もまだまだあります。373の素材は後者に近く、汚れも全くとれません。スムースレザー調のものは2年も経たずにバキバキに加水分解します。ソールもなんの工夫もないスポンジ。いや、もう本当に「スポンジ」だけとしか言いようがない。カカト周りに補強もないので足のねじれのまま靴もねじれます。

その割に定価が8800円は高すぎます。実勢価格は6000円台で、思わず手を出したくなる値段帯ですが、やめておきましょう。NBと「NBのそっくりさん」くらいには差があります。ちなみに子供靴にも「373」がありますが、こちらはしっかりした作りなのでご安心ください。

NBは良くも悪くもどれも見た目がそっくりで、差がわかりにくい。人気があるぶん、たいていの靴屋で売られているので、店員に聞いても「どれも履きやすいですよ」としか言われません。後悔したくなければ少し面倒でもNBの直営店でとことん聞いてみてください。テクノロジーを駆使したモデルや、低価格でも抜かりのないつくり、NBの代名詞であるフィット第一を具現化したウィズ(幅)展開など、情報量がまるで違います。気に入ったモデルがあれば型番さえ控えておいて、ネットで気軽に買うこともできます。決して安いメーカーではないので、後悔しない1足を見つけてください。

【シューフィッターこまつ
こまつ(本名・佐藤靖青〈さとうせいしょう〉)。イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。HPは「全国どこでもシューフィッターこまつ」 靴のブログを毎日書いてます。「毎日靴ブログ@こまつ

筆者私物の「Made in USA 998 GR」。革をあてがって履いていたもののダメージが増すばかり