中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。

 コロナ禍を経て葬儀業界の常識が塗り替わりました。家族や故人の親友のみで行うような、葬儀の小規模化が進行したのです。葬儀単価が大幅に下がりました。

 葬儀場の運用効率が弱く、変化に対応できない葬儀会社の倒産、業界の再編が加速する可能性があります。

◆葬儀単価は134万円から118万円まで低下

 矢野経済研究所によると、国内葬祭ビジネスの市場規模は1兆6447億円(「葬祭ビジネス市場に関する調査を実施(2023年)」)。セグメントは大きく3つに分けられます。最も大きいのが葬祭費用で全体の7割を占めています。この金額は1兆2039億円で、コロナ禍を迎える前の2019年比で6.1%減少しました。飲食費が24.2%減の2056億円、返礼品が12.1%減の2352億円でした。

 葬儀形態はこれまで主流だった一般葬から、少人数の家族葬、火葬だけを執り行う直葬などシンプルな形態への移行が進んでいます。全日本葬祭業協同組合連合会が2022年に行ったアンケート調査(「お葬式に関するアンケート結果」)で、どのような葬儀を行いたいか聞いたところ、家族葬と直葬、通夜がない一日葬と回答したのは86.7%。一般葬を希望するのは全体の1割ほどしかありません。

 経済産業省の特定サービス産業動態統計調査から、葬儀業の売上高と取扱件数を基に1件当たりの単価を算出すると、2023年は118万円。2019年は134万円でした。12.0%減少しています。

 2022年の日本人の千人当たりの死亡率は12.9%。前年比で1.2ポイント上昇しました。葬儀件数そのものの増加は約束されているも同然。葬儀業界は低単価時代に競合他社との差別化を図り、施行件数を伸ばさなければなりません。すなわち、レッドオーシャン化したのです。

◆新興勢力が老舗葬儀場運営会社を買収

 これまでの葬儀場は、新規出店費用として1施設に1億~1億5000万円ほどを投じ、20年で借入の返済や償却を行うなど、長い時間をかけて収益化するモデルを組んでいました。出店場所の選定も難易度が低く、対象エリアの人口と死亡率を割り出し、競合との距離がある程度とれていれば出店対象となりました。

 しかし、家族葬などの小規模葬に特化した葬儀場は、数年で投資回収を行い、同一エリアに多店舗出店するドミナント戦略で、効率的な施設運営を行っています。葬儀場の既存のビジネスモデルが破壊されたのです。

 2020年4月に「さがみの会館」を運営していた式典さがみのが経営破綻しました。全盛期の売上高は2億5000万円程度ありましたが、葬儀の小規模化によって2019年には3000万円程度まで落ち込んでいたといいます。新たな市場環境に適応できない会社は、事業を継続できません。大倒産時代も予感させます。

 そして業界再編も進んでいます。現在、勢いのある新興勢力の一社がティア。一日葬や家族葬を30万~50万円で提供しており、葬儀場のフランチャイズ展開も行っています。2023年9月期の売上高は前期比5.9%増の140億6800万円、営業利益は同11億3500万円でした。2024年9月期が会社の予想通りに着地をすると、4期連続の増収増益となります。

 ティアは2023年11月に葬儀場16施設を運営する八光殿と、22施設の東海典礼を買収しました。八光殿は1947年に設立された歴史ある会社。老舗の葬儀場が、新興勢力に飲み込まれたのです。

オーダーメイド型の葬儀も登場し、人気を博す

「家族葬ファミーユ」を運営するきずなホールディングスも好調そのもの。2023年5月期の売上高は前期比13.6%増の105億3500万円、営業利益は同10.2%増の11億8100万円でした。2024年5月期は同20.4%増の126億8000万円、営業利益は同36.3%増の16億1000万円を予想しています。3期連続の2桁増収、営業増益を達成している急成長企業です。

 今期は20店舗、来期は23店舗の増加を見込んでいます。これだけのスピードで出店しても需要が獲得できる背景として、低価格もさることながらオーダーメイド型の葬儀プランを提供していることが挙げられるでしょう。

 野球、ゴルフ、音楽など生前に親しんでいたものを、飾り付けや演出に取り入れ、家族の納得度が高い葬儀を行えるようにしました。

 きずなホールディングスはオーダーメイド型プランを強化するため、2023年5月期から人員の増強を図っています。その結果、2024年5月期の全葬儀に占めるオリジナルプランの比率は、前年の25.0%から31.3%に急増しました。当然、単価は高くなります。同社の営業利益率は2023年5月期が11.2%。2024年5月期は12.7%となる見込みです。

 高単価のオーダーメイド型と低単価のシンプル型の2つを用意するやり方は、価値観が多様化する現代の潮流を巧みに捉えたものだといえます。

◆取り違えて出棺したミスも。人材不足が大きな課題に

 葬儀のサービス力が上がるのは消費者にとって歓迎すべきもの。しかし、事業者側は人材不足に苦しむようになるでしょう。低単価で利益率が悪く、件数も多いのでれば、従業員は安く長く働くことにもなりかねません。そこにプランニング力が求められれば、専門的な知識や高度な提案力が求められます。企業は定着率を高める取り組みが欠かせません。

 ティアは2024年3月に「ティア越谷」で男女2人の遺体を取り違えて出棺したミスが発覚し、大問題となりました。名札の確認ミスだったといいます。2023年4月にはティアのフランチャイズ加盟店の従業員が、香典袋に入っていた現金12万円を盗んだとして逮捕されています。このように未熟でプロ意識の低い人材が現場に立つことになれば、ミスや不祥事が目立つことになりかねません。

 葬儀場の運営会社は、運営体制の効率化を進め、提案力を上げつつ低単価時代に備えるという難しいかじ取りが求められるようになりました。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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