ホームシアター需要の拡大などを受け、年々市場規模が拡大しつつあるプロジェクター。今回、Google TV機能を搭載した中国Dangbeiのプロジェクター「Dangbei Atom」をお借りすることができたので、その実力を紹介していこう。

○Google TV搭載スマートプロジェクター

「Dangbei」は、中国で急成長中のプロジェクターメーカー杭州当貝(ハンチョウダンベイ:Hangzhou Dangbei Network Technology Co., Ltd)のブランドだ。以前(https://news.mynavi.jp/article/20230405-n1/)ご紹介した「Emotn」はDangbeiのサブブランドであり、日本でもAmazon.co.jpや楽天、ヨドバシカメラビックカメラヤマダ電機などの各オンラインストアで販売している。昨年秋には東京都内のヤマダ電機の一部店舗で、日本で初のリアルストア展示·販売も開始している。

DangbeiやEmotnのプロジェクターは基本的に、単独で動画配信サービスを利用できる「スマートプロジェクター」であるが、搭載されているアプリが中国向けのものが大半で、日本では扱いづらかった。今回ご紹介する「Dangbei Atom」は、同社としては初めてOSに「Google TV」を搭載し、日本で主流の動画配信サービスを自在に利用できる製品となっている。

Dangbei Atom(以下、Atom)は、今年1月に発売された製品で、オーソドックスな横置きスタイルのデザインを採用しているプロジェクターだ。横型なので安定感が高く、背も低いので圧迫感も少ない。床に直置きだと流石に低すぎる場合もあるだろうが、別売りで専用のスタンドが用意されているほか、底面には1/4サイズのネジ穴(いわゆる三脚穴)が開いているので、これを使ってスタンドなどに固定することもできる。

本体サイズは、幅約19.5×奥行き約19.5×高さ約4.8cm、重さは約1.28kg。筆者の身近なものと比較すると、ほぼMac miniと同等だ(デザインもどことなく似ている)。デュアルスピーカーを内蔵しており、Atom本体とスクリーン(白い壁や布でもいい)さえあれば、即座に利用できる。スピーカーは本体正面から見て右側にしかないのだが、部屋全体に音域がうまく広がる感じで、聞いていてあまり違和感はない。ただし、音像定位はさほどよくないので、そのあたりにこだわる人は外部スピーカーなどに接続したほうがいいだろう。

背面にはHDMIポート、USBポート(Type A、USB 2.0対応)、オーディオジャック(3.5mm)が備わっており、BDプレイヤーやゲーム機USBメモリなども接続できる。また無線LAN(Wi-Fi 5)やBluetooth 5.0にも対応しており、Chromecastも搭載しているので、スマートフォンの画面を映せるほか、Bluetoothスピーカーとしても機能する。

本体内蔵の冷却ファンの動作音は、起動時などはどうしてもやや耳につくものの、それほど大きくはない。映画などを流し始めたら、ほとんど気にならない程度だ。

付属品は電源アダプターとリモートコントローラーリモコンは単四電池2本(別売り)で駆動する。電源には付属のACアダプター(120W)を使用し、残念ながらバッテリー駆動はできない。もっとも、コンパクトで軽量なので、家の中をあちこち持ち運んで使うのは、かなり容易だ。

○明るいレーザーで見やすさは上々

光源はレーザー(APLD:Advanced Phosphor Laser Display)で、水銀ランプやLEDを光源にした機種と比べると高級機という位置付けになる。表示の明るさはISOルーメンで1,200ルーメンとなる。このISOルーメンというのは、国際標準化機構(ISO)が定めた国際規格で、投影面を9分割してそれぞれの中心部を測り、平均照度を算出したもの。実際に目で見た際の明るさに近い数字が出る。

ちなみに、以前プロジェクターの明るさ表記は単純に「ルーメン」表記の機材が多かった。これは光源の明るさの表示だったが、実際に投影すると光源の種類などから単純比較が難しかった。そこで生まれたのが「ANSIルーメン」「ISOルーメン」や「CVIAルーメン」といった表示規格だ。歴史的にはANSI→ISO→CVIAという順に新しくなる。元々ANSIがあり、ISOが引き継ぎ、CVIAはANSIに準拠しつつ、よりクリアする基準が厳格化されている、という感じだが、数字的にはいずれも概ね同等のものとして参考にできるだろう。

本機の投影サイズは最大で対角180インチに対応する。180インチともなると、スクリーンサイズだけで幅約3.8m、高さ約2.4mという巨大なものになる。ちなみにこれは八畳敷の部屋の壁一面分をやや上回るサイズになるので、ちょっと一般家庭で実現するのは難しいだろう。180インチで使用する場合は投影面まで約5.1m程度の距離が必要になるので、実際には講堂などで使用する感じだろうか。

投影面積が広がれば光源までの距離も長くなるため、表示は若干暗くなる。メーカーはベストな表示を100インチ程度としており、この場合投影面までの距離は約2.4m前後で済むので、家庭で設置する場合はこのくらいを目安にすればいいだろう。それでも一般的な40インチクラスのテレビより4倍以上の広さがあるので、大迫力だ。

1,200ルーメンという明るさだが、これは2,000ルーメン級のハイエンド機ほどではないが十分に明るく、薄暗い部屋でも100インチ前後なら十分見やすい明るさが得られる。完全に暗い部屋なら、180インチでも十分実用になるだろう、という印象だ。

解像度1080P(1,920x1,080ドット、いわゆるフルHD)で、4Kソースの入力にも対応してはいるが、表示はフルHDに制限される。もっともプロジェクターの性質上、そこまで厳密に精細な表示が求められることは少ないと思われるので、実用上はさほど問題ないだろう。筆者の体感としては、十二分に明るく、精細な表示が得られていると感じられた。また、動画再生時に気になる残像感(動画ぼやけ)もほとんど感じられない。このあたりは投写素子にレーザーを使っているメリットだろう。

画質面で解像度と並んで重要とされるダイナミックレンジについては、HDR10、Dolby Vision、HLGの各規格に対応しており、それぞれの規格に対応したコンテンツは高画質で楽しめる(ただし、HDR対応についてはHDMIやUSB接続には対応せず、オンラインストリーミングのみの対応)。プロジェクターがスクリーンに反射させて表示する都合上、有機ELなどと比べると、どうしても黒が真っ黒にならず、若干浮いてしまうという面はあるものの、色表現については十分に高いと感じられた。
○多彩な動画配信サービスに対応

前述したように、Atomは「Google TV」をOSに採用している。Google TVはAndroid OSをベースにスマートテレビ向けに最適化されたプラットフォームで、一部のAndroid用アプリも動作する(リモコンで操作できるものもある)。

Google TVを採用したことで、既存のGoogleアカウントがあれば、検索履歴なども含めてスマートフォンなどで利用している情報をそのまま活用できる。また、NetflixAmazon Prime VideoHuluDisney+U-NEXTApple TVなど、Android用アプリとして提供されている主な動画配信サービスを手軽に利用できる。以前紹介したEmotn N1では、追加できるアプリが中国向けのものばかりだったので、大きな改善点だと評価できる。

また、Google TVを搭載したことで「Googleアシスタント」も利用できる。リモコンの音声アシスタントボタンを長押ししながら話しかければ、各サービスを跨いで動画の検索が可能だ。リモコンでちまちまと文字入力する必要がないのは大変ありがたい。メニューの反応や音声入力へのレスポンスもよく、操作感は快適そのもの。ハードウェアの処理能力面で不満を感じることはなかった。

画面の調整については、オート補正機能がかなり優れており、基本的にはほぼAtom任せにしておいても問題ない。台形補正についてはマニュアルで調整したくなるシーンもあるが、概ね許容範囲といったところだろう。本体位置を調整してピントなどがズレても、すぐに最適な状態にしてくれるのはありがたい。

○プロジェクターの強みを気軽に楽しめる一台

最近はテレビを持たずに、スマートフォンやタブレットでYouTubeや配信サービスをメインに視聴している人も増えているというが、そういったサービスを大画面で楽しみたい場合、白い壁面と投影距離、そしてコンセントさえ確保できれば、スタンドアローンでの運用が可能なDangbei Atomはうってつけの選択肢だ。

価格は13万4,800円前後と、LEDや液晶、DLP形式のプロジェクターよりワンランク上だが、レーザー方式ならではの、シャープで明るい映像にはそれだけの価値があると思わせるものがある。大画面と高画質を両立させたいという人にはお勧めの一台だ。
海老原昭)

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