※本稿は、斎藤広達『頭のいい人が使っているずるい計算力』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■電卓を使わなくとも瞬時に計算できている人の頭の中
日本人にとって、最も身近な数字のひとつといえるのが消費税です。
2024年現在、日本の消費税は10%(食品等の軽減税率対象品目は8%)。買い物をするときに「税抜き1000円の商品ってことは、税込みで1100円か。じゃあ、あれも買えるな」など頭の中で計算をしている方も多いのではないでしょうか。
10%であれば、本体価格の1割をプラスすればよいので、計算も比較的簡単です。数字が苦手でも、ある程度直感的に品物がいくらになるのか導き出せると思います。
しかし、消費税8%の時代はどうだったでしょう?
もし、あなたが営業や販売の仕事で、取引先から、
「この商品、税込みだといくら?」
「御社の1ケース1200円の商品を35ケースほしいんだけど、いくらぐらいになる?」
「多めに発注するから消費税分はおまけしてほしいんだけど、全部でいくらだろう?」
といった質問をされたとき、スラスラ答えることができるでしょうか?
計算しようとスマホを出したら「じゃあ大丈夫だよ」と話を切られたり暗算をしようとしてもすぐ答えが出なかったり……目に浮かぶようです。
しかし、計算力が高い人たちは違います。電卓を使わなくとも瞬時に計算をして、「税込みだと○円ですね」「35ケースだとこのくらいです」とスマートに話を進めていくのです。
数字が苦手な人たちにとってうらやましい能力です。彼らは一体、どのようにしてすばやく計算をしているのでしょうか。
頭の回転が速いから? 元々数字に強いから? 理系だから?
いいえ、そんなことはありません。彼らには、彼らなりのテクニックがあるのです。
■真面目な気持ちを捨てて、「概算」をつかむ
先ほどの消費税8%の例に戻ってみましょう。
「ところで、こっちの1ケース1200円の商品を35ケース頼んだとしたら、いくらになる?」
取引先からそう聞かれたとき、真面目なあなたはきっと「8%ということは、1200×35×1.08で……」と、頭の中で下1ケタまできっちり計算しようとするのではないでしょうか。
しかし、取引先との商談や会議においては、そこまで正確な数字が求められていない場合もあります。
重要なのは、求められている数字のレベルを見極めること。ときには、相手が知りたかったのは正確な金額ではなく、ざっくりとした金額の規模感だったということもあるのです。
ちなみに、答えは45,360円ですが、この計算を瞬時に頭の中で行うのは計算力がある人でもなかなか大変です。
だから、計算力がある人たちは、「ざっくり45,000円ぐらいですね」というように「概算」で答えを出して、金額のイメージを膨らませます。360円のことは置いておきます。拍子抜けしてしまうかもしれませんが、これこそが瞬時に計算を行うコツなのです。
スラスラと具体的な数字が言えれば、それだけで相手に「数字に強い人(=正確に物事を捉えている人)」だと思ってもらうことができます。「数字が使える」というのは、信頼を得たい人との会話において強力な武器になるということです。
あなたも一度、彼らにならって「正確に計算しなければ」という考え方を置いてみましょう。
本稿を通じて「ざっくり○○円ぐらいですね」と言えるようになれば、計算力の高い人たちに一歩近づけるはず。
また、概算とは決してデタラメな数字を伝えるものではありません。正しい計算方法を覚えれば、案外、実際の数値との差が小さいことがわかるはずです。
■「36×12」と聞かれて「432だよ」と答える意味
ちまたでは「2ケタ暗算」が流行っているようです。2ケタ同士の掛け算がすぐにできる、というものです。
では、「36×12」は? と聞かれて、「432だよ」と瞬時に答えることができたら、何かの役に立つのでしょうか。
あなたが学生なら、テストを解く際のスピードが確実に上がるでしょうから、役に立つと言っていいと思います。
でも、実生活では?
おそらく、こうした計算が必要となるのは、次のような場面でしょう。
「先月はトイレットペーパーが36ロール必要だったんだよね。せっかくなら1年分まとめ買いしようと思うんだけど」
「ああ、じゃあ36×12でだいたい430個くらいかな。これなら倉庫に置いておけるね」
ここで、「いや、正確には432個だ、2個違う!」と目くじらを立てることにはほとんど意味はありません。「ざっくり」の数さえわかれば、意思決定(この場合は「1年分まとめ買いすべきかどうか」)の判断には十分だからです。
つまり、実生活において必要な計算のほとんどは「ざっくり」でいい。ここが、本書でご紹介する計算力の大前提となります。
■脳のメモリを食わずに2ケタ同士の掛け算を行う方法
ここで、一般的な「2ケタ×2ケタの計算方法」をおさらいしておきましょう。
学校で習ったのはおそらく、1ケタずつかけていって、あとで合算するという方法です。
たとえば、
25×12
なら、「25×10」「25×2」を行い、それぞれを合算するというものです。
また、すばやく2ケタ同士の掛け算を行う方法として、「インド式」掛け算というものもあります。
しかしこの本では私の習得した計算方法を習得してほしいので、やり方はいろいろあるということをお伝えするだけに留めたいと思います。気になる方は調べてみてください。
私がおすすめしているのは、以下のような方法です。
たとえば、
25×12=?
であれば、12を四捨五入して10にします。すると、
25×10=
になります。
これなら、比較的簡単に暗算できますね。答えは250です。
そして、その後、削った2を元に戻します。具体的には、
25×2
を計算します。これも比較的簡単で、50となります。
そして、最後に、
250+50
=300
となります。
いかがでしょうか。
実は、やっていることは学校で習った方法とほぼ一緒です。
違うのは順番です。
学校で習った方法は、「25×2=50」を計算し、「25×10=250」を計算し、最後にそれを合計する、というものですが、これだと最初に計算した答えである「50」を脳内で記憶しておかなくてはならず、これが脳のメモリを食ってしまうのです。
一方、「ざっくり暗算」のやり方は、
①どちらかを四捨五入してわかりやすい数にする
②掛け算を行う
③最後に、四捨五入した分を調整する
という順序になるため、脳内メモリをなるべく使わずに済むのです。
もう一問やってみましょう。
32×22=?
この場合、まずは22を四捨五入して、
32×20=640
とします。
そして、最後に調整を行うわけですが、22を20にしたということは、1割減らしたということです。ということは、逆に1割増やせば元に戻ります。
ということで、
640の1割増し(×1.1)=704
となります。
もっともこの場合、実際の場では「700くらい」で十分でしょう。
「ざっくりでいい」から、「ざっくり暗算」なのです。
■キリよくするために少し大きめの数字で計算
次に、数字を繰り上げた場合のパターンにもトライしてみましょう。
27×18=?
この場合、27と18のどちらが四捨五入して影響が少ないか考えます。
繰り上がりに近いのは18です。よって、18を四捨五入し、20で計算します。
27×20=?
答えは540です。
次は18と20の調整です。20を18に戻すためには、アバウトに1割カットが必要です。
540-55(だいたい1割くらい)=485
という答えになります。
27×18=486なので、誤差は1。文字通り、誤差の範囲内ですね。
少しレベルを上げていきます。
27×48=?
この場合、どのように考えればいいのでしょうか。
私なら、27は30に、48は50に四捨五入します。
すると答えは1500です。
30×50=1500
次に元に戻していくわけですが、27を30にしたということはだいたい1割カット、48を50にしたということは0.5割くらいのカットかな、と見越して、「1割強のカット」と考えると
1500の9割=1350
1割強なので1300くらい?
というプロセスとなります。
実際に計算してみると1296、これまた誤差の範囲だということがわかります。
実際に帳簿をつけたり何かを発注するときでもない限り、実際にはこのくらいの数値でほぼ、問題になることはありません。精緻な計算が必要なときは、はじめから電卓を叩けばよいのです。
■「テキトー」でいいとわかれば計算が楽しくなる
この方法で計算をしてみると、ちょっと驚くほど近い数字が出てくるようになるのではないでしょうか。すると、計算することが楽しくなってきて、周りの数字を何でも計算してみたくなってくるはずです。
そうなったら、しめたものです。日常的に計算を繰り返すことで、あなたの「ざっくり暗算力」は確実に高まっていくからです。
大切なことは、最初から細かい計算をしようとするのではなく、まず概算の値を出して、その後それを調整する、ということです。
その考え方さえ身につければ、46×83などという計算も、
「とりあえず四捨五入して50×80にしよう。4000だな」
「46を50にしたということは、だいたい1割増しだな。じゃあ代わりに1割カットか。3600くらいだな」
「83を80にカットしたというのは誤差の範囲かもしれないけど、ちょっとだけ割り増しして、3800にしておくか」
とすれば、大まかな数値は得られます(正確な答えは3818)。
あるいは、665×781などというより位の多い計算も、
「下1ケタは不要だな。66×78で十分だ」
「まずは60×80で計算してみよう。4800だな」
「66を60にしたわけだから、1割くらいプラスしておこう。だいたい5300といったところか」
「78を80にしたから、ほんのちょっと削っておくか。じゃあ5200で」
「切り捨てた下1ケタを換算して、520000だな」
と、徐々に正確な数値に近づいていけるわけです(正確な答えは519365)。
正直に言えば、私は「1ケタ同士の掛け算」にまで単純化してしまっても、実際に問題になることはあまりないと思っています。
27×62なら、30×60にまで単純化し、「3×6=18」。そして、「削った0を2つ追加する」ことで1800。実際の答えは1674ですから100以上ズレがありますが、「規模感」をつかむ上では十分ではないでしょうか。
多くの人は、「正確な数字を求めなければ」と思うあまり、2ケタ×2ケタの掛け算が出てきた瞬間、思考停止に陥ってしまいがちです。「ざっくりでいい」と割り切り、アバウトでいいので答えを出そうとする。この姿勢が重要なのです。
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経営コンサルタント
シカゴ大学経営大学院卒業。ボストン・コンサルティング・グループ、ローランド・ベルガー、シティバンク、メディア系ベンチャー企業経営者などを経て独立。現在はデジタルトランスフォーメーションに関わるコンサルティングに従事している。主な著作に『数字で話せ』(PHP研究所)、『「計算力」を鍛える』(PHPビジネス新書)、『入社10年分の思考スキルが3時間で学べる』『仕事に役立つ統計学の教え』『ビジネスプロフェッショナルの教科書』(以上、日経BP社)など。
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