“朝ドラ”こと連続テレビ小説「おちょやん」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか※土曜は一週間の振り返り)第20週「なんで私やあらへんの」では、千代(杉咲花)と一平(成田凌)が離婚。劇団員の灯子(小西はる)と一平が男女の関係を持ち、子どもができたことで千代が身を退く。“千代がかわいそう過ぎる”“一平、許せない”という声もSNS で多数挙がった。朝ドラは品行方正なイメージで、浮気、不倫なんて…と思うものの、実は意外と以前から朝ドラで描かれてきた。朝ドラと浮気、不倫問題についてフリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。(以下、一部ネタバレが含まれます)
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■一平の浮気がもとで離婚の悲しい展開
「おちょやん」第20週は目をそむけたくなる悲しいエピソードだった。一平が若い劇団員・灯子と一夜の過ちをお越し、妊娠させてしまった。
一平も千代も最初は別れる気はなかったが、生まれてくる子どものことを思うと別れを選ぶ。
辛い気持ちを抱きながら、千代は鶴亀新喜劇一周年記念公演をつとめあげ、その後、そっと道頓堀を去る。
千代のモデルとされている俳優・浪花千栄子も夫・渋谷天外の浮気によって離婚し劇団を辞めていて、その後、俳優として活躍をはじめるので、このまま悲しい話では終わらないことはあらかじめわかっている。
とはいえ、決して気持ちのいいお話ではない。長年、一平と劇団のために尽力してきた千代が報われない。
一平も心変わりではなく一夜の過ちというのが痛恨だし、灯子の本音はよくわからないけれど生涯後ろめたさが残るに違いない。
朝、起きて、一日がんばろうと思う時間帯に、ドロドロして、ズドンと気持ちが落ちる話は堪忍して〜。でも、そういう人間の業の覗き見はドラマとして面白いのも事実なのである。
■ヒロインが妻子ある男性に惹かれる場合も
朝ドラでも折につけ、浮気や不倫が描かれている。たとえば、前作「エール」(2020年度前期)では、裕一(窪田正孝)がカフェーでシャツに口紅をつけられて音(二階堂ふみ)に浮気を疑われる。これはかなりライトなパターン。
ドキドキしたのは「スカーレット」(2019年度後期)で、喜美子(戸田恵梨香)の弟子・三津(黒島結菜)が夫・八郎(松下洸平)に心惹かれていく。しかし、三津が大事に至る前に去っていき、逆に、健気だと好印象を残した。
朝ドラの視聴者には既婚女性も多く、彼女たちはヒロインに自分を投影して見る。夫が他の女性と浮気するエピソードを見て楽しいはずもない。
ところが逆のパターンで、主人公がステキな人と道ならぬ恋に落ちる場合はときめくときもある。
「カーネーション」(2010年度後期)で糸子(尾野真千子)が妻子ある周防(綾野剛)に惹かれていったときには賛否両論となった。 周防さんがどんなにステキでも、ヒロインが浮気することは道徳観念の高い視聴者たちにとっては歓迎し難かったのである。
ふたりの恋にキュンとなる視聴者もいる一方で、拒否反応を示す視聴者も現れ、糸子の会社の社員(六角精児)が「気色悪いもん もちこまんといてください」と責める場面はまるで一部の視聴者の代弁のようにも見えた。
糸子と周防の恋は良くも悪くもかなりの反響を巻き起こし、以後、不倫描写には気を使われるようになったとまことしやかに語り伝えられている。
現在再放送中の「花子とアン」(2014年度前期)は、花子(吉高由里子)と夫・英治(鈴木亮平)のモデルとされている夫婦の馴れ初め自体が道ならぬ恋だったよう。ドラマでは花子は既婚であることを知らずに恋して、妻が病死してから結婚する展開にマイルド化された。
ただし、花子の心の友・蓮子(仲間由紀恵)が夫(吉田鋼太郎)との結婚生活を嫌って駆け落ちするエピソードを情熱的にドラマティックに描いていて、こちらは肯定的に受け止められているのだから、不思議なものである。
そのうえ花子の父(伊原剛志)の浮気疑惑も描かれていた。こちらはあくまで浮気疑惑に過ぎないが、父、花子、蓮子と主要登場人物の恋には何度もハラハラさせるのであった。
■道ならぬ行いをするドキドキ
夫の女性遊び、浮気疑惑、本気の不倫とパターンはいろいろながら、道ならぬ行いをするドキドキはドラマには不可欠な要素のひとつでもある。
どうなるの〜?と続きが気になるので、エピソードとして取り入れたい作り手の気持ちはわかる。浮気疑惑は手軽な取り入れやすい刺激物である。
夫に別の女性の影を感じて主人公が気を揉むエピソードは、前述の「エール」や「花子とアン」のみならず「ごちそうさん」(2013年度後期)や「あさが来た」(2015年度後期)にもあった。
再放送中の「あぐり」(1997年度前期)もあぐり(田中美里)の夫エイスケ(野村萬斎)は妻以外の女性と遊んでいる常識にとらわれない人物として描かれていた。
現在、BS 12 で再放送中の「ふたりっこ」(1996年度後期)は応用形で、主人公の父(段田安則)が歌手オーロラ輝子(河合美智子)の押しかけ付き人になって家を出ていったことで家族関係にわだかまりを作る。
このように枚挙に暇がない中で、夫の浮気を視聴意欲のフックにしつつ、現代的なリアルな問題として着目したのが、平成最初の朝ドラ「青春家族」(1989年度前期)。
母(いしだあゆみ)と娘(清水美砂)のダブル主人公で、母のほうは夫(橋爪功)の単身赴任と浮気に直面する。
彼女自身も年下の社員と微妙な関係に…という夜のドラマ(たとえば他局の金曜夜10時)のような気配がたちこめ、時代の変わり目に朝ドラにも変革をというような意識を感じる作品だった。
「おちょやん」が、しばらく控えめにしていた問題にあえて踏み込んで描いたことにも時代の変わり目を感じなくもない。
それでもやっぱり千代と一平が別れてしまうのは悲しかった。千代のリカバリーに期待する。
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