2011年にSEKAI NO OWARIメジャーデビューしてから10年。ボーカルのFukase菅田将暉主演の映画『キャラクター』で俳優デビューを果たし、周囲の励ましも糧に殺人鬼という難役を独特の存在感で演じ切った。インタビューでは「何事も真面目にやらないとつまらない」と実直な人柄をにじませたが、それは危険な“もろ刃”でもあるという。コロナ禍では自分を見失い、音楽活動を続けるかどうか迷ったことも明かしたFukaseが、表現にかける思い、喜び、苦悩、そして“もろ刃”という言葉の真意を明かした。

【写真】屈託のない笑顔を見せるFukase、インタビューカット

 浦沢直樹作品を数多く手掛けてきたストーリー共同制作者の長崎尚志が練り上げた企画を実写映画化した本作。監督に永井聡を迎え、売れない漫画家・山城(菅田)が、スケッチに向かった先で目撃した殺人犯・両角(Fukase)をキャラクター化した漫画を描いて売れてしまったことで運命に翻弄(ほんろう)されていくダークエンタテインメント。

■俳優オファーに戸惑い “1年半の演技レッスン”を条件に決意

 プロデューサーからの熱烈オファーに、Fukaseは「楽器も持ったことのない人がフェスのトリで演奏するようなもの」と悩み、多くの人に相談。これまでもオファーはあったものの、「僕自身、映画が大好きなので、未熟な人間が入ることによって作品が壊れたり不完全なものになるのは嫌だった。それは、いちクリエイターとしてもそう」という気持ちから断り続けていたという。

 「家族からは『ぴったりじゃん』と言われて。殺人鬼ですよ? 息子のことをどう見ているんだろう」と笑いながら俳優の神木隆之介にも相談したことを明かし、「みんな『やった方がいい』と言ってくれて、誰も止めてくれなかった(笑)。1番相談に乗ってくれたのが、神木隆之介くんで、もう本当に昼夜問わず連絡くれました」と感謝しきり。そして、バンドのメンバーから「表現者としてはやってみたほうがいい」「すごくいいものを持って帰ってこられると思う」と背中を押され、事前に1年半ほど演技のレッスンを受けることを条件に出演を決意。「メンバーのサポートがあってできました」と語る。

 スクリーンに登場するのは、静かな狂気をまとった殺人鬼。役作りをする上で参考にしたキャラクターは特にいないそうで、神木に言われた“優しい殺人鬼”をイメージして両角を作り上げていったという。「声をワントーン上げて、丸みを帯びたイントネーションでセリフを口にしてみた。その声を聞きながら、両角のしぐさや目の動き、性格を連想していきました」と、“声”が役作りの要となったことを明かした。

メジャーデビューから10年「仕事はモチベーションがすべて」

 ミュージシャンと俳優。表現者という意味で、リンクする部分は多かったようだ。「ある役者の方に『演技が下手な人はどういう人だと思いますか?』と質問を投げかけたことがあって。すると『目の奥まで感情が行き届いていない人が、下手だなと思うことはある』という答えでした。僕もよく『何かを伝えたいときは、黒目の奥で歌うこともあるな』と感じるので、それがスッと理解できた」と語る。表現の可能性をさらに突き詰めたことで「早くライブをやりたい。歌の表現ももっと強くなっている気がする」と音楽へのアウトプットに期待する。

 「現場がすごく楽しかった」と、音楽ではできない体験をしたことも改めてかみ締める。SEKAI NO OWARIメジャーデビューから10年が経ったが、Fukaseにとって本作との出会いがまた未来へと向かう大きな力になったという。「10年経ってもまだ、やらなくてはいけないもの、できないものが見えているのは幸せなことだなと思いました。仕事はモチベーションが全て。モチベーションを維持することはいい作品を作るうえで1番大切なことだと思うので、まだ楽しめてるって最高だなと感じています」と喜びをにじませる。

 今後の俳優業への可能性については、「初心を残しつつ、おごらず、自分が出ることによって作品にプラスになることがあるなら考えることもできますが…お上りさんにならずに、こういう時こそ慎重にやっていかないといけないかな」と謙虚な気持ちをのぞかせた。

■コロナ禍で「音楽を続けていくのか迷ったことも」

 サスペンスフルな物語から、「自分は何者なんだ?」という問いかけが浮かび上がる本作。ファンタジックな世界観でファンを魅了するバンド、SEKAI NO OWARIのボーカルとして唯一無二の存在感を発揮しているFukaseだが、自身のキャラクターについては「“仕事なので”と一線を引くことが苦手。距離感の近い中で、なにかを生み出していくことが得意」と告白する。「公私混同型で、プライベートを切り売りして曲を作っているタイプ。だからこそ、幼なじみとバンドをやっているんだと思います」としみじみ。

 また、「何事も真面目にやらないとつまらないと思っている」と胸の内を明かし、「コロナ禍で1度ダウンしかけた時があって…。今年に入ってから少し自分を見失って、このまま音楽を続けていくのかと迷った時期があるんです。でもそこで、いろいろと考え直した。よくスタッフとは『コロナ禍でお酒を飲む時間がたっぷりあるんだけど、仕事をやった後に飲むからおいしいんだよな』と話すんですが、本当にそうだなと。何だって真面目に挑むからこそ、その先にうれしいことを見つけられる」と語る。

 しかしその真面目さは、自分を傷つける可能性もある“もろ刃”でもあるという。「真面目というのは自分のためですが、やり切ろう、向き合おうとするとダウンしてしまったり、自分を壊してしまう可能性もある。でもプロとしては“真面目だから倒れてしまった”という状況になるわけにもいかない。真面目さという刃が自分にも向いていると意識しながら、自分との距離感も考えていかないといけないなと思います」とまっすぐな瞳を見せた。

 距離感を意識し、人間関係も創作活動も真面目にじっくりと向き合うFukaseの個性がいかんなく表現された映画『キャラクター』では、彼の新たな魅力を再発見できるはずだ。(取材・文:成田おり枝 写真:ヨシダヤスシ)

 映画『キャラクター』は、6月11日より公開。

「SEKAI NO OWARI」Fukase  クランクイン! 写真:ヨシダヤスシ