(髙山 亜紀:映画ライター)

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 先日、とある外国人タレントにインタビューした際、「日本が将来、他の国々のように、外国人を排斥するようになったら嫌だから、その前に何か役立ちたい」と話していた。聞きながら、こちらとしては複雑な心境だった。排斥運動は国が移民の人たちを受け入れているからこそ起きている反動ではないか。一方、日本は受け入れる前から拒絶している。ある意味、既に排斥済みといえるのではないだろうか。

在日クルド人、難民認定受けた者はゼロ

 昨年、日本で難民認定されたのはたった47人。日本全国で2000人、埼玉県には1500人のクルド人がいるといわれている。が、いまだ誰一人、認定を受けていない。迫害を受け、国を追われた彼らは何十年も難民申請を続け、入管の収容を一旦解除される「仮放免許可書」をもらうことを繰り返すことで、なんとか日本に住み続けている。あくまでも「仮」だから、いつ入管に収容されるかわからないし、強制送還させられる可能性もある。住民票もなく、許可なく県外にも出られない。なんと働くことさえ許されない。

『東京クルド』はそんなクルド人青年、オザン(18歳)とラマザン(19歳)に5年以上かけて取材し続けたドキュメンタリー。彼らは、小学校から日本の学校に通い、流暢な日本語を話す。

 ラマザンは通訳になるのが夢だ。小学校の時に人の役に立てたことがうれしかったのだという。クルド語、トルコ語、日本語も話せるから、今度は英語を勉強したい。毎日、漢字の勉強をして、専門学校に通える日を待ち望んでいる。小学校しか出ていない母親はそんな息子を見て、目を細め、「誰かの役に立ちたい」という息子の志を父親も誇らしく思っている。

 彼もまた、ビザを持っていないから、通訳の資格を得たとしても働ける保証はない。それでもラマザンはくじけない。そんなポジティブな思考の彼でさえ、結局、8校もの学校から受け入れを拒否された時はショックを隠し切れなかった。前例がないから入学を許可できない。抱いた夢が軒並み、潰されていく。いや、学びたい、働きたいという人としての当然の権利を夢なんていっていいのか。

 オザンは18歳。いまは日雇いで解体の仕事をしている。その仕事さえ、仮放免許可の立場では許されないのかもしれない。それでも2カ月に一度、「仮放免許可書」をもらうために受ける面接で入管職員はなぜか見て見ないふりをする。

「働いちゃいけないルールなんだよ」「働かないで、どうやって生きていけばいいんですか」「それは私たちではどうすることもできないよ。自分たちで考えて」。人を人とも思わないような職員の態度に驚かされる。10代の男の子の方がずっと大人だ。職員の我慢ならない態度に激昂することなく、かわしてゆく。ここで生きていくしか道はないから。

生殺しの日々

 理由もなく、収容所に何年も拘束される人もいる。捕まらないだけまし。それなのに、「帰ればいいんだよ。他の国に行ってくれ」と職員は投げやりに言う。

 危険を逃れて、日本にたどり着いたのに。来たくて来たわけじゃないのに。それを知っていながら、「帰れ」という。親たちは故郷だからだろう。いずれは帰りたいという。でも、オザン、ラマザンのような若者はトルコにいた時のことは小さすぎてあまり覚えていない。帰って戦うのも怖い。日本で育った普通の若者なのだ。両親たちは伝統的な料理を食べているが、オザンは一人の時、カップ麺やコンビニ弁当を食べている。日本の若者と変わらない。

 解体業の仕事をしていると「君なら、どこでも仕事できるでしょう」と言われる。若くて明るくてちょっとやんちゃそうで、人に好かれそうなオザン。やりたいことはないのか。幼い頃、夢中だった野球はいじめがきっかけでやめてしまった。それ以来。両親は自分に期待しなくなったという。ラマザンと違い、オザンは横道にそれてしまった。

 そんなオザンをラマザンは変わらず、励まし続ける。「能力があるのに無駄にしてる」。ラマザンに背中を押され、オザンは外国人タレント事務所の試験を受ける。彼なら適任だと誰もが思うだろう。担当者も乗り気で、すぐにでも番組出演が決まりそうな勢いだ。ところが、いや、やはりというべきか、彼らは就労してはいけない身なのだ。テレビに出るなんてとんでもない。結局、危険な日雇いの仕事に戻るしかない。やりたいことがあれば応援する。父親はそういっているが、オザンは悲観的だ。やりたいことができるのか。思い描くだけ無駄なのではないか。

 若くて意欲もあるまだ10代の若者が県外にすら出ることも許されずに、毎日、悶々と暮らしている。生殺しだ。彼らは言う、「ただ。いるだけ」と。

 彼らには幼い弟、妹たちがいる。日本で生まれ育った子たちは親が話しかけても、日本語で返す。トルコに行ったこともない彼らは国籍すら持っていない。彼らの未来もいったい、どうなるのだろう。

「自分らは虫以下ですよ」

 入管職員の態度を見て、「水際対策」という言葉が思い浮かんだ。病原菌・麻薬・害虫などが国内に入り込むのを防ぐための強い対策。でも。彼らは人間である。オザンが自嘲気味に言う「自分らは虫以下ですよ。ダニですよ」。

 一貫してトルコ出身クルド人の難民申請を認めない日本。見て見ないふりはもうできない。限界はとっくに過ぎている。

『東京クルド』

7月10日(土)より〔東京〕シアター・イメージフォーラム 、〔大阪〕第七藝術劇場にて緊急公開。ほか全国順次

監督:日向史有

撮影:松村敏行 金沢裕司 鈴木克彦

編集:秦岳志

プロデューサー:牧哲雄 植山英美 本木敦子

製作:ドキュメンタリージャパン

配給:東風

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